矢作穂香、『ピーナッツバターサンドウィッチ』で深夜ドラマの女王に? 帰国後の活躍を振り返る

 先日、最終回を迎えたMBS系列「ドラマ特区」の『ピーナッツバターサンドウィッチ』。ファッション誌の読者アンケートから生まれた同名漫画を原作に、政府の秘密組織“ピーナッツバターサンドウィッチーズ(PBS)”の3人が、恋愛における様々な悩みを抱えた4人の婚活女子を調査・サポートしながら、現代の恋愛感や結婚観について研究していく物語だ。伊藤健太郎らPBSメンバーの物語と、堀田茜や瀧本美織ら“調査対象者”たちの物語とがそれぞれ異なる空気感で展開していくことによって、近年流行著しい恋愛リアリティ番組を彷彿とさせる作品に仕上がっていたといえよう。

『ピーナッツバターサンドウィッチ』(c)「ピーナッツバターサンドウィッチ」製作委員会・MBS (c)ミツコ/講談社

 その二種類のテイストの異なる物語をつなげる役割を果たしていたのが、PBSの新人研究員で婚活女子たちの行動を監視するため潜入捜査をおこなう椿。演じていたのは今年1月まで同枠で放送されていた『ねぇ先生、知らないの?』での好演も記憶に新しい矢作穂香だ。かつては「未来穂香」の芸名で“ラブベ”や“ピチレ”といったローティーン向け雑誌のモデルとして活動し、女優デビュー後も『鈴木先生』(テレビ東京系)での生徒役やアジア圏で爆発的な人気を博した『イタズラなKiss〜Love in TOKYO』(フジテレビTWO)のヒロインを演じるなどなかなかの活躍ぶりをみせてきた彼女。18歳の時にニューヨークへの留学を経験し、帰国後に「矢作穂香」として新たなスタートを切ってから3年。そのめざましい飛躍ぶりを振り返ってみたい。

『花筐/HANAGATAMI』(c)唐津映画製作委員会/PSC 2017

 矢作穂香としての最初の大仕事となったのは、大林宣彦監督がメガホンを取った2010年代の日本映画屈指の大傑作『花筐/HANAGATAMI』。佐賀県の唐津市を舞台に、戦争前夜の若者たちの青春群像をいかにも“大林映画”らしい鮮烈な映像表現で描き出した同作で、矢作が演じていたのは肺病を患い屋敷の中に幽閉されたヒロインの美那。登場人物のほぼ全員が無時代感にあふれた個性を放つ中でも、ひときわミステリアスで妖しい雰囲気を携えたこの役柄は、極めて重要なアクセントになっていたのだ。大林映画のヒロインといえば、遡れば原田知世から薬師丸ひろ子、石田ひかりや宮崎あおいなど錚々たる顔ぶればかり。先日長い闘病生活の末にこの世を去った大林監督の、最後から数えて二番目のヒロインという大役を得たことは、矢作の女優人生にとって実に大きなものとなったに違いない。

『僕らは奇跡でできている』(c)関西テレビ

 その後2018年の秋に配信ドラマとして制作された『今夜、勝手に抱きしめてもいいですか?』で初恋の相手を一途に想いつづけるヒロインを演じ、同時期にカンテレ・フジテレビ系列で放送された高橋一生主演の『僕らは奇跡でできている』でも教え子のひとりを演じる。“未来穂香”時代の出演作では中高生役が多かったが、その流れは“矢作穂香”になっても変わらずのようで、無理に背伸びをせずに実年齢に合わせた等身大の役柄を演じることによって、彼女の実直な演技が際立つというわけだ。それだけに、『僕の初恋をキミに捧ぐ』と『いなくなれ、群青』で実年齢よりも下の女子高生役に回帰してみれば、“未来穂香”の頃にはなかったどことなく落ち着いた雰囲気が見えるように。

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