『ミッドナイト・ゴスペル』なぜ話題に? 新感覚アニメーションが可能にした、壮大なテーマの表現
多彩なゲストの顔ぶれ
本作のアニメーションとしての効能の前に、バラエティに富んだゲストについて紹介しておこう。本作はダンカン・トラッセルのポッドキャストインタビューから作られたことは上述したが、300回以上ある配信の中から8本が厳選された。1話では『Celebrity Rehab with Dr. Drew』などの番組で知られる依存症の専門家ドリュー・ピンスキー、2話はキリスト教についての著書を持つ作家アン・ラモットとラグー・マーカス、3話ではかつて3人の男児を殺害したとして死刑判決を受け、後に冤罪が立証されたダミアン・エコールズ(映画『デビルズ・ノット』のモデル)などがゲストで登場する。
インタビューテーマは、依存症や死、オカルトや魔術などのスピリチュアルなものから、瞑想の効用、仏教から葬儀などの死の産業についてなど、死や心の問題を扱ったものが多い。トラッセルのポッドキャストはより広範なテーマを扱っているが、本作ではこうした精神系の内容が選ばれている。
そうした一連の内容を経て、最終話に登場するのは、死を間近に控えたトラッセルの実の母親である。このインタビューは彼女の死の3週間前に収録されたものだそうだ。
アニメーションの原形質性が壮大なテーマに直結
本作の最もユニークな点は、インタビュー内容とアニメーション映像の中で起きていることが一致していない点だ。例えば、映像ではゾンビを激しい戦闘を繰り広げながら、会話の内容は薬物の依存症についてだったり、食肉工場で肉にされそうになりながら、身近な人の死に直面することについて語り合ったりしている。音声と映像のイメージの乖離しているのだ。
これについてウォードは「終末的な状況でも人は終末や自省的なことを語るとも限らない」のではないかと発想したそうだ(参照:Light at the End of the Apocalypse: Pen Ward & Duncan Trussell Preach ‘The Midnight Gospel’ - ANIMATION MAGAZINE)。音声内容をそのまま映像にするのではなく、鑑賞者のイメージを撹乱・拡大させるように自由な発想で映像を組み立て、音声と映像がせめぎ合うような作品になっている。
本作は仮想世界を舞台にしていることもあり、主人公のクランシーは毎回異なるアバターをまとい、ほかのキャラクターたちも姿形を変幻自在に変えてゆく。『戦艦ポチョムキン』で知られるセルゲイ・エイゼンシュタインがアニメーションに見た「原形質性」が存分に発揮された映像だ。
原形質性とはエイゼンシュタイン曰く「いかなるフォルムにもダイナミックに変容できる能力」のことで、ディズニーキャラクターたちが自由に足や手を伸ばしたり、別の生物を模倣したりする様に見出した概念だ。形状を自由に変化させるアニメーションのメタモルフォーゼの特殊性を指した言葉として一般的には解釈される。
本作が驚くべき点は、このアニメーションのメタモルフォーゼを用いて、死と輪廻転生といった壮大なテーマに到達してみせるところだ。主人公のクランシーはアバターを変え続け、絶えず変化する世界の中で、戦争や死の産業、身近な人の死の話を通じて死とは何かを思索し、瞑想や仏教、オカルト魔術の話で精神のありかを探る。そして最終話で母の死に直面する。