『浦安鉄筋家族』の美しいバカバカしさ 全キャスト真剣勝負の異種格闘技っぷりが痛快
近年、こんなにも全力でバカバカしいドラマがあっただろうか。春期ドラマが軒並み放送延期や放送中断の憂き目にあうなか、『浦安鉄筋家族』(テレビ東京系)が滞りなく放送されていることを感謝せずにいられない。浜岡賢次による原作漫画『浦安鉄筋家族』は1993年に連載を開始して以来、現在までにシリーズ累計4400万部以上を売り上げているナンセンスギャグ漫画の金字塔だ。そのドラマ化の報せに、最初は耳を疑った。なにしろ原作者の浜岡氏自身が実写化について「問題が多くて絶対無理だよ~」(番組公式サイトより)とコメントしたぐらいなのだから。
スタッフ・キャストが口を揃えていわく「地上波のギリギリに挑んだ」というこのドラマ。その言葉に偽りなく、ビンタ、飛び蹴り、乱闘、法律スレスレのアナーキー行動、喫煙、うんこetc……「コンプライアンスなんてクソ食らえ」といわんばかりの“問題”が目白押しだ。しかし、これらのどの要素とて原作の世界観と登場人物のキャラクターを再現するためには欠かせないのである。なにかと口うるさい視聴者も多いこのご時世に、原作の“信念”を尊重しつつ、原作ファンもそうでない視聴者も楽しませなければならない。実はこれ、とてつもなく難しい挑戦なのではないだろうか。
『おっさんずラブ』(テレビ朝日系・劇場版)や『探偵が早すぎる』(読売テレビ・日本テレビ系)の演出・監督でおなじみの瑠東東一郎と、関西小劇場界の星・ヨーロッパ企画の主宰で脚本家の上田誠による強力タッグが、その「難題」を見事にクリアしている。なんと、まず第1話に大沢木家の主でヘビースモーカーの大鉄(佐藤二朗)が禁煙するしないのエピソードを持ってきて、初っ端から喫煙シーンてんこ盛りで放送してみせる。もちろん原作のあのシーン「カートン吸い」もきっちりと再現した。まさにこれは「当世、お怒りの向きもあるやもしれませんが、我々はこのスタンスでやらせてもらいます!」という宣言にほかならない。
原作に頻出する「うんこネタ」の数々も、地上波のホームコメディの域を(ギリギリ)逸脱しない映像処理で、ポップかつ最高にアホらしく描ききっている。法定速度完全無視のカーチェイスシーンは、テグス糸がはっきり見える模型撮影で再現。三男でまだ赤ちゃんの裕太(キノスケ)を乱暴に扱うシーンでは、明らかに人形とわかる人形を使っている。一見「コンプライアンスなど、どこ吹く風」のように見せておきながら、実はものすごく気を配っており、「バカバカしく面白いものを本気で作ろう」という深夜ドラマの原点回帰でありながら、一方で非常に時事的なドラマといえる。