『アシガール』は奇跡の1本だった 黒島結菜×伊藤健太郎のかけがえのない瞬間がここに

再放送中『アシガール』は奇跡の1本だった

 伊藤健太郎は、若君を、現代の若者のようなちょっとガッツいた狼でもなく、慣れ過ぎた感じでもなく、泰然自若とした人物として見事に演じきっている。戦国時代は人生五十年、十代で当主となったり結婚したり早熟であったはずで、しかも死が身近にあって、達観していたであろうという感じがよく出ていた。現在の再放送で初めて観る方にはちょっとネタバレだが、若君が平成にやって来たとき漫画を読んで「胡乱な読み物じゃ」と評価に値しないというような態度をとるところなど、現代と戦国時代の差異をきちんと表現すればするほどこのラブストーリーは萌えるのである。

 黒島結菜も若い俳優のなかでは演技がしっかりしているほうなのだが、力むと声が裏返る感じが、いつも全力という印象につながって初々しく映り、好感度が高い。落ち着いた若君と常に落ち着かずあたふたしている唯。そのあたふたっぷりに若君の心も少しずつ動いていく。この、絶え間まくふたりの心が引き合って動いている姿は、先日亡くなった大林宣彦監督の代表作であり、タイムスリップものの古典的名作『時をかける少女』の原田知世と高柳良一にも似た清らかさなのであった。

 スタッフは、先日まで放送されていたNHK連続テレビ小説『スカーレット』と同じ、制作統括・内田ゆき、演出家・中島由貴、音楽の冬野ユミである。「胸キュン」というベタな売り言葉を使いながら、実際描かれているものはベタなようでベタでない。俳優の芝居の最も新鮮な、2度と同じものが撮れないであろう瞬間を撮ることに腐心しているように感じるところは『スカーレット』も同じに思う。

 黒島結菜を泥のなかに放り込んで動かす場面など、黒澤明か!と思うようなところまであった。すぐに姿を変える雲、葉っぱに乗った朝露、窓から差し込む陽光……その瞬間にしかない、あっという間に消えてしまう、だからこそ尊い、それこそが「キュン」であることを『アシガール』は描いている。それが「恋」であり「生命」である。出演者も、伊藤健太郎、黒島結菜、イッセー尾形、本田大輔、飯田基祐が『スカーレット』と共通していて、『スカーレット』を愛した人も楽しめるはずである。

 『スカーレット』に黒島と伊藤が出ながら共演シーンがなかったことが残念と思ったのだが、『アシガール』のふたりを大事にするためにもあえて絡ませなくて良かったのかもしれないといまは思う。だからこそよけいに続編希望。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
『アシガール』(再放送)
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜放送
出演:黒島結菜、伊藤健太郎、松下優也、ともさかりえ、川栄李奈、石黒賢、イッセー尾形ほか
原作:森本梢子
脚本:宮村優子
音楽:冬野ユミ
演出:中島由貴、伊勢田雅也、鹿島悠(NHKエンタープライズ)
制作統括:内田ゆき(NHKエンタープライズ)、土屋勝裕(NHK)
写真提供=NHK
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/ashigirl/

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