『PSYCHO-PASS 3』トリガーを握る意味を考える 梓澤康一が一流のヴィランたる由縁

『PSYCHO-PASS』引き金を握る意味

決断する主体・慎導灼

※以降『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』のネタバレあり。

 『PSYCHO-PASS3』において、梓澤康一という人物が一流のヴィランたる由縁は、こうした“決定”の重要性を倒錯的に理解していた点にある。

 彼は物語の各所で、「色相悪化か死か」「都知事か妻か」などといった、命に関わる“究極の選択”を他者に迫る。梓澤はこの“選択”の場面をいくつも演出することを通じて、巧みに犯罪プランを遂行していく。

 しかし、彼の“選択”に関する理解と方法は、灼のそれとは根本的に異なるものだった。灼はドミネーターの「トリガー」に指をかけることによって選択を自らのものとして引き受け、躊躇し、思考する。それに対し、梓澤は選択を相手に委ね、思考を放棄する。『FIRST INSPECTOR』のラストシーンでは、自らシビュラシステム=神の一部になることを欲する梓澤に対し、シビュラシステムが「ただの独善的なゲーム愛好者」であると断罪する。“神になれなかった男”梓澤廣一(その惨めな姿は『天空の城ラピュタ』で“王になれなかった男”ムスカを彷彿とさせる)は、槙島や鹿矛囲のように、死によってシステムから排除されることすら許されず、システムの管理下において裁かれることを強いられる。そしてそれを選択したのが、慎導灼であった。

「俺はドミネーターが嫌いだ。でも1つだけ気に入ってる。それは引き金が付いていることだ。撃つことの責任は、ドミネーターを握る人間にまだ残されてる。そうじゃないのか、シビュラシステム!」

 灼のこの言葉を聞いたシビュラシステムは、その提案を受けいれ、梓澤の執行権を彼に委ねる。灼はドミネーターの「犯罪係数288」という音声をしかと聞き届けた後、引き金を引く。

 シビュラは「マカリナ」という身体性を欠いたAIに被選挙権を承認したが、それはむしろ些末なことだったのかもしれない。むしろ重要なのは、慎導灼という生身の人間による“決断”というファクターだったのではないか。今後シビュラは、免罪体質者の脳を取り込むだけでなく、様々な人間の“決断”を承認し続けていくことになるだろう。法斑静火と常守朱が加わることによって生じる新たな親和力の中で、果たしてシビュラという“キャラクター”はどう変化していくことになるだろうか。

■原嶋修司
アニメを愛し、アニメについて語ることを愛するアニメブロガー。予備校講師。作品評や関連書籍のレビューを中心とするブログ『アニ録ブログ』を運営。Twitter: @alter_Ego_3_02

■配信情報
『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』
Amazon Prime Videoにて編集版を独占配信中
声の出演:梶裕貴、中村悠一、櫻井孝宏、大塚明夫、諏訪部順一、名塚佳織、沢城みゆき、佐倉綾音、日高のり子、宮野真守、中博史、日笠陽子、森川智之、堀内賢雄、矢作紗友里、関智一、野島健児、東地宏樹、伊藤静、本田貴子、花澤香菜
監督:塩谷直義
シリーズ構成:冲方丁
脚本:深見真、冲方丁
キャラクター原案:天野明
キャラクターデザイン:恩田尚之
色彩設計:鈴木麻希子
美術監督:草森秀一
3Dディレクター:大矢和也、森本シグマ 
撮影監督:村井沙樹子
撮影視覚効果:荒井栄児
編集:村上義典
音楽:菅野祐悟
音響監督:岩浪美和
オープニング・テーマ:Who-ya Extended「Synthetic Sympathy」(SMEレコーズ)
アニメーション制作:Production I.G
配給:東宝映像事業部
(c)サイコパス製作委員会
公式サイト:psycho-pass.com/

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