アニメ化不可能と謳われたダークファンタジー 『ドロヘドロ』成功のカギを探る

 個性的で魅力溢れるキャラクターは、原作においては、カイマンなど人外であれば写実的に書き込まれる一方で、ニカイドウなどの人間は、眼が比較的大きめでコミカルに、少ない線で描かれている。

 アニメ化にあたっては、線の省力化を計りつつ、いかに原作の個性を映像に昇華させるかがポイントとなるが、2012年『となりの怪物くん』で、アニメ化すると魅力が失われることも多い少女漫画のタッチを繊細に表現してみせた岸友洋がキャラクターデザインを担当。2017年『牙狼<GARO>』でもみせたのと同様、独自の世界感を巧みにアニメの線に移し換えることに成功している。特にニカイドウ、能井という破天荒なまでに強い女性キャラの、説得力溢れるナチュラルな筋肉の描写は、新たなアニメヒロイン像を創出させたといえるかもしれない。

 また、ゴア描写同様にテレビアニメにおける表現の問題としては、本作の独特の倫理観も見逃せない。冒頭で、カイマンとニカイドウは魔法使いを躊躇なく切り刻むのは、魔法使いが人間に対して敵対的な存在であるという背景があるが、物語が進むうちに人間の側が「町内会」という自警団を組織し「魔法使い狩り」行っていたことが明かされ、人間側の一方的な「正義」が揺らぐ。

 ここ最近は児童向けSFアニメに対して、倫理観を持ち合わせるべきではないかといった主張がバズるなど、作品に過剰な倫理観を求める風潮が一部にある。当然、主人公の暴力に対しあらぬ方向から倫理を問われる可能性がある時代となっており、創作物の世界観をしっかりとした理論武装で裏付ける必要がある。

 本作でシリーズ構成を担当するのは、『亜人』『進撃の巨人』といった、人間の様態でありながら異なる価値観を持つ存在と、人類の関わりを描いた作品で脚本を手掛けた瀬古浩司。監督の林祐一郎とは『賭ケグルイ』でもコンビを組んでおり、独特の倫理観に支配された作品の映像化には長けていることが実証済み。

 また、本作では、人間側と魔法使い側双方が、入り組んだ謎を解き明かしていく様子が平行して描かれるという、観る側が混乱しがちならせん構造となっているが、原作を大きく改編することなく、かつ解りやすい物語となっていることも、評価を高める要素となっている。総じて、かつて独特の世界観をアニメにしてきた制作陣が、本作でも巧みな仕事をみせていると言えよう。

 さらに、個性的ゆえに演じるとなれば難しいキャラクターが多いが、カイマンは、NHK大河ドラマや朝ドラへの出演も話題となったベテラン高木渉を、原作者の希望通りにキャスティング。ヒロインと言うには余りに強いニカイドウは、若き実力者、近藤玲奈が見事に演じている。

 筆者が注目するキッカケとなった音楽面では、『アイドルマスターシンデレラガールズ』『ハナヤマタ』などアイドル作品を手掛ける一方で、『刻刻』『賭ケグルイ』と独自の世界観にも対応する藤田亜紀子が音響監督に座る。また、音楽プロデュースは(K)NoW_NAMEが担当し、ヘヴィメタルやパンクの影響を受けた世界に合わせ、疾走感溢れるBGMとOP・複数のED楽曲を提供、世界感の構築に大きく関わっている。

 現在は原作での6巻頃。結末とこの先が気になる作品といえるのだ……それが『ドロヘドロ』。

■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。Instagram

■放送情報
『ドロヘドロ』
TOKYO MX、BS11にて毎週日曜日 24:00〜
MBSにて毎週火曜日 27:00〜
原作:林田球
監督:林祐一郎
シリーズ構成:瀬古浩司
キャラクターデザイン:岸友洋
音楽:(K)NoW_NAME:R・O・N
アニメーション制作:MAPPA
製作:ドロヘドロ製作委員会
(c)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会 (c)TOHO CO.,LTD.
公式サイト:https://dorohedoro.net
公式 Twitter:@dorohedoro_PR

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