差別の連鎖を止めるためには 『ナイチンゲール』が見出す一筋の光

 オーストラリアがイギリスの植民地だった19世紀。離島のタスマニアで、人類史に残る虐殺、迫害が行われた。この人間の罪深い歴史の真実を、目をそらさずに描ききったことで騒然となった映画が、本作『ナイチンゲール』である。

 その内容の凄まじさに、一部映画祭での上映時には途中退席する観客も出たというが、同時にヴェネチア国際映画祭にて審査員特別賞、最優秀新人俳優賞(バイカリ・ガナンバール)の2冠を獲得。ナショナル・ボード・オブ・レビューのトップ10映画に選出され、オーストラリア・アカデミー賞では作品賞、主演女優賞を含む6部門で最多受賞作品となるなど、高い評価を得た作品だ。

 ここでは、そんな問題作『ナイチンゲール』の内容を追いながら、そこで真に何が描かれているのかを、できるだけ深く考えていきたい。

 植民地時代、オーストラリアはイギリスで罪を犯した者を送る流刑地となっていた。当時、女性は比較的軽微な罪でもオーストラリアに送られる場合があったという。それは、男性ばかりになっている男女比の割合を是正する目的があったようだ。そんな女性たちが、どのような役割を担わされたかについては想像がつく。本作の主人公は、けちな盗みによって、そんな女性流刑囚の一人となったアイルランド人のクレアだ。

 美貌と美声を持ったクレアは、この地方を支配するイギリス軍の将校であるホーキンスの目にとまり、他の流刑囚とは異なり、アイルランド人男性と結婚し子どもをもうけるなど、家庭を持つことを許される優遇を受ける。しかし、その裏で彼女はホーキンスの愛人として囲われることを余儀なくされていた。カゴの中の鳥のように扱われ、歌わされる姿はまさに、美しい鳴き声が珍重される小鳥“ナイチンゲール”のように見える。

 クレアを演じるのは、TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にも出演した、アイルランド系の俳優アイスリング・フランシオシ。オペラの舞台経験もある、可憐な歌声で、苦難に遭う人間の悲劇性と、それに抗おうとする意志を力強く表現する。

 刑期が終わったはずなのに、ホーキンスは優遇したことの恩を着せ、クレアを手もとから手放さない。ホーキンスの慰みものになっていることを知らない夫は、クレアがいまだホーキンスのもとで働かされていることに抗議。そのトラブルが上官に見られたことで、ホーキンスは出世を見送られる事態となる。逆恨みをしたホーキンスとその部下たちによって、クレアの一家は、およそ想像し得るなかで最悪といえる卑劣な暴力を受け、人間としての尊厳を踏みにじられる。本作が物議を醸したのは、この異常とも思える陰惨な場面があるためだ。

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