『サーホー』は世界の娯楽映画の趨勢を変える!? 『バーフバリ』ファンも“万歳”な内容に
『サーホー』が『バーフバリ』と最も異なる点は、『バーフバリ』があくまで“物語”を中心に置き、インパクトある映像と練り込まれた物語の面白さを相乗的に高めていたのに対し、本作は映像の方が明らかに際立っているところだ。最終的に一点へと収束する3つの物語が存在し、つじつまが合っているにも関わらず、それよりも各シーンのインパクトがあまりに強すぎるため、観客はいま自分が何を見ているのかが、よく分からないままに圧倒的な映像に身体をゆだねていくことになる。それはそれで、また違った快感があるのだ。
このような常識はずれの映画を作り上げたのが、海外でMBAを取得した若者3人が2013年に設立した新しい製作会社「UVクリエーションズ」だ。クリエーションや配給システムのような映画の専門的な知識からビジネススキルに至るまで、新しい世代のセンスが活かされた、常識の枠を越える映画づくりを行っている。
長編第1作『Run Raja Run』(2014年)により南インド国際映画祭最優秀新人賞を獲得し、本作が二作目となった監督のスジートも、90年生まれの新鋭。17歳の頃からいくつも短編作品を自作、YouTubeにアップしてきた才能で、1作目にしてヒット作。そこから生まれるのが、既成の映画製作、映画表現だけにこだわらない、新しい感覚である。『サーホー』は、意欲的な製作者と監督による、若い力の象徴のような作品なのだ。
香港映画とハリウッド映画で活躍してきたジョン・ウー監督は、監督作『M:I-2』(2000年)の絵コンテを製作していたとき、トム・クルーズがビルの中から爆発とともにヒーローのような格好で飛び出してくる場面を作ろうとして、スタッフたちから「それじゃスーパーマンになってしまう」と、必死に止められたことがあったのだという。結局、その場面はいくぶん地味なかたちに落ち着くことになった。たしかに、全体のリアリティをコントロールするという観点に立つなら、スタッフの言い分は正しいだろう。だが、逆にいえば、それがハリウッドの限界だともいえる。
できる限りの荒唐無稽な表現へと突っ込んでいく『サーホー』は、そのような理性的なストッパーはなく、どこまでも突き抜けていこうとするパワーがある。そんな本作を観ていると、「もっと映画は自由になっていい」という気持ちになってくる。このような規模で新しいインドのアクション映画が今後も作られていけば、世界の娯楽映画の趨勢を変える、次世代の潮流が生まれるのではないか。世界の娯楽をリードするのは、インド映画であり、インド映画のフォロワーになっていくかもしれないのだ。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『サーホー』
3月27日(金)新宿ピカデリーほかにて公開
監督:スジート
出演:プラバース、シュラッダー・カプール、マンディラ・ベーディー、ニール・ニティン・ムケーシュ、ジャッキー・シュロフ、チャンキー・パーンデーほか
配給:ツイン
2019/インド/原題:Saaho/5.1ch/169分
公式サイト:https://saaho.jp/