『サーホー』は世界の娯楽映画の趨勢を変える!? 『バーフバリ』ファンも“万歳”な内容に
興味深いのは、ハリウッド映画の名シーンをかき集めたようなアクションシーンの数々だ。チームで協力しながらミッションを進め、いざとなったらバイクにまたがり、とんでもない高所から飛び降りるなど、単独で危険に飛び込んでいく内容は『ミッション:インポッシブル』シリーズを彷彿とさせる。
さらに、スポーツカーで疾走し超人的なテクニックで危機をかわしたり、想像を超える大胆な作戦を実行していく姿、そしてパーティーで盛り上がる様子は、『ワイルド・スピード』のようでもある。さらには『マッドマックス』のごとく、砂嵐吹きすさぶ荒廃した無法地帯でデスマッチを繰り広げ、『アベンジャーズ』のスーパーヒーローさながらに美しく身一つで空中を舞い、あの『バーフバリ』を思い起こさせる、神々しい場面へと行き着くという凄まじさ。
後半は、これらクライマックス級のシーンが、休みなく次々と描かれていく。そんな常軌を逸した映画を作り上げることも凄まじいが、まずこのような発想をできること自体が圧倒的である。そして、それらのシーンは、見事な撮影技術と視覚効果によって、荒唐無稽な内容ながら迫力とリアリティをもって映し出される。
「パロディやオマージュばかりだ」と思う観客もいるかもしれない。しかし、こんな映画がいままであっただろうか。強いて言えば、ハリウッドで大規模なアクション映画が全盛だった90年代、全編クライマックスのようなアクションが持続する、ジェームズ・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『トゥルーライズ』(1994年)が、唯一近いと思わせる一本だ。しかし、本作はそこにインド風の神々しいセンスや、プラバースのカリスマが加わっているのである。最終的に本作は、何の映画にも似ていない、『バーフバリ』とも味わいが異なる独創的な映画になっている。
ヒロインとの恋愛描写も規格外だ。男女の愛の行為を、アショークとアムリタが険峻な山脈のなかで愛の歌を歌いあげる幻想的なシーンを入れることで、必要以上にダイナミックに表現したり、狂ったように二人で世界中の素敵な観光名所に出かけ続けるシーンにも圧倒される。きわめつけは、ピンク色のフラミンゴが集うピンク色に輝く湖“ピンクレイク”にボートで乗り出すところだ。本作においては、アクションだけでなく、もはや愛の表現すら、狂気をともなった領域へと到達しているのである。
現代劇なテクノロジーを活かした表現や、ハリウッドアクション志向など、本作は『バーフバリ』シリーズとは表面的に異なるところも多い。しかし、あらゆる手段を駆使して本当に面白い表現を達成しようという想いや、新しい映像表現を確立するという挑戦心は、深い部分でつながっている。その意味で本作は、似ていない部分も多いからこそ、むしろ『バーフバリ』の精神を受け継いでいるといえるかもしれない。