『37セカンズ』HIKARI監督が語る、世界の巨匠たちを見つめたとき 「私はまだスタート地点」

『37セカンズ』HIKARI監督のルーツ

「映画は全部、心で語っちゃうもの」

――物語自体、加山さんと出会って展開なども決まっていったそうですね。

HIKARI:初めて演技をする子を、いかにリアルに映画の中で立たせるかを考えた時に、彼女自身の実際の生活、生まれ育った要素などを少しでも取り込んだ方が、彼女の心と目の奥にある本来の感情が出てくるんじゃないかなと思いました。映画は全部、心で語っちゃうものなので、演技ではなく、どうやったらユマに彼女自身がたどり着けるか、彼女の目の奥の何かを追求しました。

――母親とユマが本音をぶつけ合うシーンが印象的でしたが、本作を通して演出面でこだわったところはありますか?

HIKARI:喧嘩のシーンは、怒鳴ればいいのではなくて、その瞬間に思いが乗っからないと、やっぱり嘘に見えてしまうと思うんです。常に怒って声を荒げてという基本の芝居についても、明ちゃんは初めてでしたし、自身も叫んだりしない子だから、発声の仕方も届かなくて、当たり前ですが苦戦しながらも一生懸命やってくれました。私も怒鳴りながら、「カメラ回して! アクション!」という空気でやっていたので、このシーンの撮影はとても緊張感が漂っていました。

――現場で役者さんと意見を交わすことはありましたか?

HIKARI:もちろんです。現場で役者さんたちとは、「このキャラクターはこの瞬間、言葉の裏では何を言いたいのか、どうしたいのか」を確認する作業の連続でした。私が書いたセリフ一つ一つをただ単に読まれるのは嫌だったので、ストーリーの中のセリフのスタート、ミドル、エンドのタイミングだけマークをつけて、フリースタイルでしてもらったシーンもあります。あとは感情とセリフの確かめ合いを、常に行いました。

――特に印象に残っている撮影シーンは?

HIKARI:お母さん役の(神野)三鈴さんとは最後のシーンでぶつかりました。撮影の直前に台本を書き直して、ユマが帰ってくると思いきやお母さんが帰ってくる設定にしようと話したら、三鈴さんが「それは無理、お母さんは待っているべき」と。彼女の意見は娘を待ち続けた母からでた愛だったと確信したので、その意思は尊重しました。「ただその代わり、玄関には来ないでリビングルームで待っててください」と話して、撮りました。お母さんも大人になったから、ユマが最後に家に帰って来る時は、玄関まで迎えには行かずに、帰って来た娘を受け止める、手を焼かないということを示してほしいと話して、あのシーンができました。

ーー夜の街をいろんな物に見立てるシーンがとても綺麗だったのですが、監督がこれまで経験したり、見てきたものを取り込んでいたりする部分もあるのでしょうか?

HIKARI:私がアメリカのユタ州にいた時、本当に何もなかったんです。大地と山と太陽と自然だけ。そんな場所にいると、自分の人生はちっぽけだと考えたり、自分が思う悩み事って実はそんなに対したことではなかったりするのかなと思ったり、ピンチはチャンスで、全て自分の見方や考え方で、実は全てなるようになっているのかもしれない、と思うことがありました。例えば、映画でユマが、どんどん周りに追い詰められていくのは、彼女が持っている本質やその可能性を試されているからかもしれない。もし私なら、できるところまで頑張ってやってみようとするし、ユマや、この映画を観ている観客の人たちにもそこにいく勢いの大切さを伝えたかった。セリフには出さずに、全て行動で表現する。そして、彼女がグッと決意をした瞬間にはまた新しい道が開く。私たちの考え方一つで、その対応一つで、気持ちも人生もきっと変えられるとういう、ポジティブになれる要素が入った作品は、これからもどんどん作っていきたいなとは思いますね。

――今後も大作を撮ることが決まっているようですが、監督にとって本作はどういうものになりました?

HIKARI:思ってもいないご褒美となりました。作っていた時は、「これで大丈夫かな? 私は好きやけどみんな好き?」と思いながら編集していたので(笑)、ベルリン国際映画祭にノミネートされた瞬間は本当に嬉しかったです。この映画を作ろうと決心したとき私とプロデューサーの山口(晋)で、色んな所に走り回って、頭を下げて、門前払いされたり……を半年繰り返しながら、資金を集めて、やっと作ることができて、そしてその映画がまさかのベルリンに入って、まさかの観客賞を受賞できたことで、これまで私たちを信じてくださった皆さんに、少しでも恩返しができた気がしてホッとしました。そして、最終的に世界中のみなさんが喜んでくれるものが出来上がったのは本当に良かったです。アメリカのプロデューサーは、観客賞をすごく重視するんですが、この賞をいただいたことで、ハリウッドやイギリスからの仕事のオファーがたくさん来るようになりました。ここまでの道のりは長かったですが、ありがたいことにこのおかげで本当に好きなことだけをしていけるゴールにやっとたどり着いた気がします。とは言うものの、世界の巨匠たちを見つめたとき、私はまだスタート地点に立ったばかりだと思います。

――今後やりたいなと思うことはありますか?

HIKARI:撮りたいものはいっぱいあります。全部に通じて言えるのは、ポジティブになる気持ちを与えたり、メッセージ性を与える作品を作っていきたいと考えています。アート性の強いものなのか、エンタメと言われるものか、それは物語によって変わっていくと思いますが、観終わったあとに、新しい風が吹いているような気にさせられる作品、少し世界が違って見える作品たちを手がけたいですね。ある意味、それは私の使命かもしれないなと。これから十何年間、映画を作り続けたら、もしかしたらそれを通じて新しい何かを発見して、全く違うことをし始めるかもしれない。でも今はとりあえず映画を作るのが楽しいので、とにかく精一杯やっていきます。でもまたいつか日本で撮影がしたいですね。 その日を今から楽しみにしています。

■公開情報
『37セカンズ』
新宿ピカデリーほか全国公開中
監督・脚本:HIKARI
出演:佳⼭明、神野三鈴、⼤東駿介、渡辺真起⼦、熊篠慶彦、萩原みのり、芋⽣悠、渋川清彦、宇野祥平、奥野瑛太、⽯橋静河、尾美としのり/板⾕由夏
配給:エレファントハウス、ラビットハウス
2019年/⽇本/115分/原題:37Seconds/PG-12
(c)37Seconds filmpartners
公式サイト:http://37seconds.jp/

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