驚異の手法で映し出す、中国社会への「警鐘」 『ロングデイズ・ジャーニー』のノスタルジーと現代性
『ロングデイズ・ジャーニー』は監督のパーソナルな作品という意味においても、映画というアートフォームに対しての批評という意味においても、極めて自己言及的な作品だ。この作品では映画館のシーンが何度か描かれるが、作品が3D&ワンシークエンスショットにトランスフォームする一つ前の映画館のシーンに入る直前に、こんな台詞がモノローグが語られる。「映画と記憶の最大の違いは、映画は必ず虚構でシーンをつないで作っているが、記憶は真偽が曖昧で不意に眼前に浮かぶ点だ」。これは、シーンをつながずにワンシークエンスで観せる後半の約60分が、もはや映画ではなく個人の記憶の再現であることを示唆している。
驚かされるのは、そのようなパーソナルなアート作品、言い換えるなら海外の批評家受けする強烈な個性を持つ作品が、中国国内で公開3週間で約46億円(https://www.the-numbers.com/movie/Di-Qiu-Zui-Hou-De-Ye-Wang-(China)-(2018)#tab=summary)もの興収を記録しているということ。現在の中国は映画の作り手もタフなら、映画の観客もタフで、それは映画の市場規模という意味では高度成長の恩恵にも授かっているわけだが、作品を観ればわかるように心情的にはむしろそのカウンターに位置しているという懐の深さまで持っているということだろう。きっとはっきりと好みは分かれることになるだろうが、『ロングデイズ・ジャーニー』が現在の映画を語る上で必見の作品であることは間違いない。
■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)、2020年1月30日発売。Twitter
■公開情報
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯て』
2月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて全国順次公開
監督:ビー・ガン
出演:ホアン・ジエ、タン・ウェイ、シルヴィア・チャン
配給:リアリーライクフィルムズ、ドリームキッド
提供:ドリームキッド + basil、miramiru、リアリーライクフィルムズ
2018年/中国・フランス/カラー/138分/原題:Long Dayʻs Journey into Night(地球最后的夜晩)
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