モトーラ世理奈、世界を反射する映画旅 『風の電話』『恋恋豆花』対照的な2作品で見せる表現力

モトーラ世理奈、世界を反射する映画旅 『風の電話』『恋恋豆花』対照的な2作品で見せる表現力

「たぶん、旅をしているだけで自然に、今まで考えていなかったことがフッと出てくる」

 旅の映画に主演した若き女優は、私たち取材班にそうつぶやいた。モトーラ世理奈。旅の映画とは、現在公開中の『風の電話』(諏訪敦彦監督)。モトーラ世理奈だけの時空間がおそらく、ある。それは私たちの時空間とも、映画の物語の時空間ともまったく異質な何か。でも異質ながらも鋭利に交差もして。東日本大震災で家族をいっぺんに失った少女ハル(モトーラ世理奈)は、茫然自失した異様な旅の身体だ。

『風の電話』(c)2020 映画「風の電話」製作委員会

 映画の途中で、8年前に津波で流されたはずのお母さん、お父さん、弟が、笑顔一杯に立ち現れるシーンがある。お母さんもお父さんも若いまま、弟は幼いまま。家族の亡霊と戯れるハルは、そしてこの映画でおそらく初めてあどけなく笑う。それまでふさぎ込んでいた彼女の、堰を切ったような笑顔。逆説的なことだが、この時、彼女は冥界に片足を置いている。幽霊的身体。モトーラ世理奈は幽霊的身体をも表現できる稀有な演者として私たちの前に現れた。使い古された形容をあえて使えば、憑依型役者。

 『風の電話』にはシナリオはない。いったん完成したシナリオを破棄し、かんたんなあらすじとシーン説明だけが書かれたメモだけを頼りに、撮影現場で監督と俳優たちが話し合いを重ねながら、芝居を練り上げていく。だから正確には即興芝居ではないが、演者には、即興芝居に向かうのと同じ集中力、想像力、ひらめきが要求されるだろう。モトーラ世理奈はそんな難しい現場も「自分には合っている気がする」と感じつつ、自分らしさを損なわずに乗り切っていった。

『映画『風の電話』──三浦友和、西島秀俊が語るモトーラ世理奈と映画の魅力』より

「その場所に行ったら、自然にそういう気持ちは出てきたんですけど、どうやってその感情を出したらいいか分からなくて、考えていて。その時に諏訪監督が助け船を出してくれて、それで演ってみたら、自然とできた」。

 『風の電話』と立て続けにもう1本、彼女の主演映画が公開される。『恋恋豆花』(今関あきよし監督)。奇遇なことにこちらも旅の映画。震災で家族を失い、生の意味を探し求めながら、冥界とも接しあう巡礼のような旅だった『風の電話』とは対照的に、こちらは甘酸っぱい青春の旅切符、アイドル映画の先祖返りを志向したツーリズム映画。

『恋恋豆花』(c)映画「恋恋豆花」製作委員会

 父親の新しい婚約者(大島葉子)と2人で台湾旅行に出かけることになった菜央(モトーラ世理奈)。当初は気の進まなかった菜央も、南国・台湾のおだやかな風景、温かい人々、おいしい食事やスイーツに慰撫されて、心の武装を解除していく。画面には紀行番組のように場所や名前の情報スーパーが臆面もなく入って、カジュアルな作りが強調される。諏訪敦彦監督、今関あきよし監督、それぞれの映画作りの方法の違い、モトーラ世理奈という逸材を主演に迎えての押し出し方の違いがまざまざと出ていて、とても興味深い2本だ。モトーラ世理奈の魅力の幅の広さ、多面性を知るためには『風の電話』と『恋恋豆花』の両方を観るのが吉と言える。

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