『スカーレット』マツ(富田靖子)は幸福だったのか? 柔和な笑顔で川原家の精神的支柱に
娘たちの笑顔の中心にいたマツは川原家の精神的支柱だった。喜美子が女性陶芸家として周囲の反対にめげずに挑戦を続けることができたのは、変わらずに寄り添い続けた母の存在があってこそ。穴窯での7回目の窯焚きでは、直子や百合子夫妻も加わって、一家総出で窯焚きを2週間続け、見事に自然釉の再現に成功した。
お嬢様育ちで鷹揚な性格のマツは、貧乏と苦労続きの川原家にあってオアシスのような存在だった。荷物を取りに来た八郎に、茶碗を「大事にしまっとこうか」と伝え、帰ってくる場所があることを知らせる心配りはマツの細やかな人柄を表している。
病弱だったマツは夫の死後も生き抜き、三姉妹の行く末を見つめながら、親友の笑顔に見守られてドラマの舞台を去った。マツは幸福だったのだろうか? 「昭和の母親」を体現したようなマツだが、娘たちの進学を応援し、窯焚きの費用が足りない喜美子に自分の貯金を渡すなど、娘たちの味方でい続けた。世が世なら、きっと喜美子や直子のように自分の意志でさまざまなことに挑戦したはずだ。
マツ亡き後、息子の武志(伊藤健太郎)が家を出た川原家は、実質的に喜美子が家長になった。独り身となり、自身の人生と向き合う喜美子にとって、地縁や血縁に縛られない関係性が終盤にかけて大きな比重を占めていくと予想される。
何かを成し遂げた人の陰には必ずそれを支えた人の存在がある。時代とともに変わる家族のあり方を描いた『スカーレット』で、マツの微笑は幸福な記憶とともにあり続けるだろう。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)放送予定(全150回)
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、マギー、財前直見ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/