日曜劇場、ミステリージャンルで変化? 『テセウスの船』原作との比較で謎を解く

『テセウスの船』原作との比較

 他にも、舞台が音臼村の場所が北海道から宮城へと変更されていたり、犯人視点の描写が、テープに独白を録音する場面から、ワープロに殺人の記録を打ち込む場面へ変更されていたりといった、細かい変更場面も多数ある。

 前者に関してはロケの都合による改変かもしれないが、心と佐野文吾が温泉でドラマ『北の国から』(フジテレビ系)について話すことで意気投合する場面がなくなっていたので、そこから逆算して『北の国から』の舞台である北海道(富良野)から宮城に変更したのかもしれない。

 二人が『北の国から』の黒板五郎(田中邦衛)を理想の父親として語るくだりは、本作のテーマとも密接につながっていた重要な場面だが、放送局がTBSであるため、権利上の都合で泣く泣くカットしたのだろう。

 一方、テープからワープロへの変更は、音声が表現できない漫画と声が聞こえてしまうドラマの違いを考えると上手い改変である。同時にパソコンではなくワープロを用いることで、平成元年という時代を上手く表現できている。

 ストーリー面でも改変がいくつかあるのだが、こうした漫画との違い自体が『テセウスの船』における「過去に干渉した結果起きた現代の変化」に見えてくる。つまり、このドラマ自体が心の何回目かのタイムスリップを描いているのではないかと邪推したくなるのが、本作の隠れた面白さである。

 時間を題材にしたミステリーは、2000年代以降多数作られており、同人ゲーム(サウンドノベル)の竜騎士07の『ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion)を筆頭に枚挙に暇がない。今、振り返ると同じ時間を何度も繰り返す停滞感に、平成という時代の空気が重ね合わされていたのかもしれない。

 この停滞は平成が終わった令和日本でも続くのだろうか? ドラマ版は原作漫画とは違う犯人になるらしいが、令和という時代ならではの結末を描いてほしい。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
日曜劇場『テセウスの船』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:竹内涼真、榮倉奈々、安藤政信、貫地谷しほり、芦名星、竜星涼、せいや(霜降り明星)、今野浩喜、白鳥玉季、番家天嵩、上野樹里(特別出演)、ユースケ・サンタマリア、笹野高史、六平直政、麻生祐未、鈴木亮平
原作:東元俊哉『テセウスの船』(講談社モーニング刊)
脚本:高橋麻紀
演出:石井康晴、松木彩、山室大輔
プロデューサー:渡辺良介、八木亜未
製作:大映テレビ、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/theseusnofune/

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