パートナーでオスカー像を争う! N・バームバック×G・ガーウィグの“自伝”にとどまらない豊かな創造性

N・バームバック×G・ガーウィグの作家性

個人の物語を越える両者の作家性

 二人が持つ共通の作家性としては、どちらも個人性に即した物語を重んじながら、新たな視点や価値観を取り入れることで、自伝を越えた創造性あふれる作品となっていることが挙げられる。

 例えばバームバックの初期作、両親の離婚を通じ成長を迫られる息子達の姿を描いた『イカとクジラ』は4度の離婚経験がある実父を持つバームバックの半回顧録と言われるが、家族の別離を子供の視点から語ると同時に、“家庭生活の再定義”を提示するといった俯瞰の眼差しも感じられる。

 また『マリッジ・ストーリー』も夫婦の終焉をテーマに据えており、こちらも前妻との別れを経験した彼自身の実体験が基にありながら、「この映画は、(夫婦のどちらかの)味方でいるということの愚かさを示している」「本作で一番重要な要素は離婚そのものではなく、“やり直す”こと」と監督コメントにあるように、主観から離れた表現への昇華が見てとれる。

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 特に、妻ニコールが女優としての野心を抱えながらも舞台監督である夫チャーリーの劇団に縛り付けられ、自己の価値を見いだすことが出来ない葛藤が描かれている点は、元夫としての経験を表すのみでなく、現代社会における女性の立場と既存の家族観とのねじれを捉えている。

 ガーウィグもまた『レディ・バード』において、故郷カリフォルニア・サクラメントにあるカトリック系の私立高校に通っていた彼女の姿を主人公に投影している一方、本人が「実際の私はレディ・バードのように破天荒な行動はせず、静かな学生生活を送っていた」と話すように、創作性を持ってレディ・バードのキャラクター要素を膨らませていったようだ。

『レディ・バード』(c)2017 InterActiveCorp Films, LLC.(c)Merie Wallace, courtesy of A24

 同作に込められた思いを、彼女は「“少年時代”とは誰のためのもの? 少女にとっての人格形成を描く作品はどこにあるのでしょうか」と語ったが、長らく“イットガール/ミューズ”という異名を背負わされた自身の経験が、少年から見つめられる存在としての少女ではなく、少年を見つめ、母親とのすれ違いや将来に思い悩む存在としてのレディー・バード像の創造へと繋がったのではないだろうか。

 そして最新作『若草物語』はルイーザ・メイ・オルコットによる原作がベースとなっており、同書はこれまでにも映画化がなされているが、登場人物の四姉妹に女性監督ならではの特別な想いが込められることで全く新しい『若草物語』が誕生した。中でも次女ジョーにフィーチャーした語り口であることがガーウィグ版の特徴となっているが、「女性が表現なんて」という周囲の声をよそに「世界に通用する作家になる」と志すジョーには、19世紀に生きた女流作家オルコットとともに、ガーウィグの姿が表されているように思う。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

 また彼らの他に、バリー・ジェンキンス(『ムーンライト』)×ルル・ワン(『フェアウェル』)やボー・バーナム(『エイス・グレード』)×ローリーン・スカファリア(『ハスラーズ』)など、近年実生活のパートナーである監督達がシーンを盛り上げ注目を集めているが、この動きは過去ジェンダーバイアスの強かった映画製作現場がガーウィグらの躍進によって変化が起こりつつあることを示唆するものだろう。

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