『フィッシャーマンズ・ソング』監督が語る、音楽映画の醍醐味とイギリス国内の文化の違い
イギリスで活動している実在の漁師バンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」の実話をもとに映画化した『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』。コーンウォール地方にある港町ポート・アイザックで結成された彼らは、イギリスに住む人にとって馴染み深い舟歌や民謡を歌っており、2010年にメジャーレーベルと契約を交わしたのち、1stアルバムが全英チャートのトップ10入りを果たすという快挙を成し遂げた。本作では、フィッシャーマンズ・フレンズのサクセスストーリーと、映画化にあたり新たに創作されたキャラクターであるマネージャーのダニーの成長を描いている。
監督を務めたのは、本作が長編2作目となるイギリス出身のクリス・フォギン。前作『キッズ・イン・ラブ』でも音楽を使ってストーリーを作り上げた監督に、音楽映画の魅力や、イギリスの中でも特に独自性の強いコーンウォールという土地の文化について話を聞いた。(編集部)
「映画作家として、音楽は大きな存在」
ーー「フィッシャーマンズ・フレンズ」のどんな部分に惹かれたのでしょうか?
クリス・フォギン(以下、フォギン):脚本を読ませてもらった時に初めて彼らの存在を知って歌を聞くことになり、最初から惚れ込んでしまったんだ。僕はもとから音楽が好きだけれど、彼らのような漁師バンドの“舟歌”というジャンルに触れるのは初めてでハマってしまったんだよね。
ーー監督の前作『キッズ・イン・ラブ』も音楽を使った映画でしたね。
フォギン:実は、僕は映画よりも先に恋に落ちたのは音楽なんだ。音楽業界で弟が働いてるし、毎日音楽を聞いていてライブもたくさん見ている。映画を作る時も、どのシーンでどんなふうに音楽を使うかは最初から考えていて、常に正しい音楽の使い方、選択をすれば映画はますます輝くと思っている。映画作家として、僕の中で音楽は大きな存在なんだ。
ーーこの数年、音楽映画はヒットが続いていますが、監督が思う音楽映画の魅力は?
フォギン:音楽を使った映画は、観客がもともとその楽曲を知っていたら一緒にシンガロングすることができる。『ロケットマン』がそのいい例だね。映画の中で歌っている人は笑顔なことが多いし、歌を楽しんで歌っている人を見ていると、こちらも楽しくなる。楽しさが波及されていくことが音楽の魅力だと思うし、自分の映画ではいつもその瞬間を捉えたいと思っているよ。
ーー現代的なポピュラーソングではなく、舟歌や民謡を歌うフィッシャーマンズ・フレンズを映画にするということで、一番チャレンジングだったことは?
フォギン:僕がこの映画に着手する前から、フィッシャーマンズ・フレンズにはたくさんのファンがいて愛されている。実際に彼らの歌を聞いたことのある人たちが、スクリーンからも同じ歌が聞こえてきて、そのスピリットを感じることができるという点はとても大事にした。なるべくリアルに音楽を感じてもらいたいんだ。
ーーイギリスではロングランが続いていますね。
フォギン:単純に、こういうストレートに心が暖かくなるような映画は久しぶりだったんじゃないかな。特にイギリスは今、社会的にもいろんな問題にぶつかっているから。90分ストーリーに夢中になって笑顔になれるという体験が、ヒットにつながったのかもしれない。観客が喜んでくれることに僕は本当に感謝しかなくて、役者の力も借りて、愛に溢れた映画を作れたから、それが観客にも伝わっているのかもしれないね。フィッシャーマンズ・フレンズのファンだけではなく、新しいお客さんが彼らの音楽に触れる機会を作れたことが嬉しいよ。