【ネタバレあり】『スター・ウォーズ』続3部作とは何だったのか 小野寺系が“失敗の理由”を解説

『SW』続3部作とは何だったのか

“反逆”することしかできなかった「エピソード8」

 「新3部作」に対しては、人によってまちまちな意見を持っているだろう。だが、確実に言えることは、「旧」も「新」も、時代の最先端をいき、映画の表現を変革したということだ。とくに「新」は、いまでは多くの超大作映画がとり入れている、“グリーンバック”を全面的に利用した、3DCGアニメーションと実写を本格的にミックスした映画製作の先駆的存在になった。ルーカスは「旧」から「新」までに、16年間ファンを待たせ続けた。それは、表現したい内容にCG技術が追いついてきたという部分が大きい。

 対して、エイブラムス監督によるエピソード7は、最新どころか、オールドファンのために、あえて古くさいデザインを積極的に採用し、フィルム撮影を重視するなど、往年の郷愁漂うテイストに満ちた作品となっている。このような内容で、新しいファンが多く生まれるだろうか。これでは、いままでSWに触れたことのない観客は、自分とは関係ない文化だと感じるのではないのか。このような基本線をなぞった「続3部作」は、はっきりと前線から下がったことを感じさせるシリーズになってしまった印象がある。

『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(c)2017 & TM Lucasfilm Ltd.

 続く、ライアン・ジョンソン監督・脚本による『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(エピソード8)は、そんな保守的なエピソード7への反動を強く感じる作品となった。いままでのシリーズの、あえて逆をいくような展開を連続させ、観客のド肝を抜こうとする。ルーカスがこの作品を観て賞賛したのは、“新しいものを作ろう”という気概にあふれていたからだろう。

 ただし、この作品にも致命的な考え違いがあるように思う。エピソード8は、意外な展開を作りすぎたために余分な描写が多く、SW史上最も長い上映時間にも関わらず、ほとんど中身がなかった。そんななかで示すことができたのは、「過去にとらわれないこと」、「フォースはみんなのもの」というテーマくらいであろう。

 なぜ、そうなったのだろうか。結局、エイブラムスもジョンソンも、“SWらしさ”に「従う」、「反逆する」という違いはあれど、どちらも“SWらしさ”にこだわっているという点では共通している。これは、「続3部作」の重要キャラクター、カイロ・レンがダース・ベイダーに似せて作ったヘルメットを被ったり、壊したり、また修復したりという描写にも表れている。「続3部作」で描かれ続けたのは、結局のところ「“SWらしさ”とは何か」というテーマであり、それにまつわるものを描くことに終始しているのである。

 そんな話はSWファンの間でそれぞれに議論すればいいだけのことだ。しかし、彼らが手がけたのは、SWの本編なのである。サーガ自体がサーガらしさについて語り出す……そんな本末転倒な話はない。このような小さなスケールでSWをとらえていた時点で、ふたりの監督たちは、そもそもSWのシリーズを撮る資格はなかった。そして、そうなった原因には、“SWらしさ”を求めたディズニー上層部やプロデューサーたちの意向もあったのだろう。それは、いままで降板させられた監督たちが何人もいるという事実を見ても分かる。辞めさせられた監督に問題があるのでなく、表面的な“SWらしさ”にこだわる、狭いヴィジョンしか持っていない製作陣に問題の根がある。

 メタフィジックな視点でSW現象をとらえ、そこに自分なりの理解や解釈をくわえていくというアプローチ……。このような手法は、続編やリブート作が続く現在のハリウッド映画では、むしろスタンダードになってきているのかもしれない。しかし「続3部作」は、ふたつのトリロジーと並ぶ存在である。せせこましい自意識を捨て、もっと腰のすわった強靭な物語とテーマが必要になるはずなのだ。

 「続3部作」が、ルーカスを締め出した時点で必要だったのは、映画の脚本執筆に長けたローレンス・カスダンの能力とはまた異なる、新たなファンタジーを創造することのできる存在だったはずだ。新たな物語を紡ぎ、意味のある重厚なテーマを描き出す“作家”の才能を持った、例えば『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作者ジョージ・R・R・マーティンくらいの力を持った人材が加わらなければ、これまでの作品と肩を並べることはできなかったのではないか。それほど、ジョージ・ルーカスは非凡な能力を持った映像作家なのだ。SWは、西部劇のような冒険娯楽作品でもあるが、ファンタジーであり戦記ものでもある。そして、ギリシャ悲劇のような面をも見せる。その奥行きを軽視した製作陣は、あまりに浅はかだ。

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