「2019年」を舞台にしたSF名作『ブレードランナー』『AKIRA』『図書館戦争』 ディストピアは現実に?

SF作品で描かれた2019年は実現したか 

 一方、パラレルワールドの日本を扱い、平成ではなく「正化」の元号が使われている設定なのが、『図書館戦争』だ。有川浩(現在は有川ひろに改名)の原作(シリーズ完結は2007年)で実写映画2作(『図書館戦争』2013年、『図書館戦争 THE LAST MISSION』2015年)のほか、様々なメディアに展開したこの物語は、検閲をテーマにしていた。「メディア良化法」による表現弾圧に対抗するため、「図書館の自由法」が制定される。検閲を執行する良化特務機関と、図書館を防衛する図書隊が武力で対峙する。この大胆な着想の物語で、ヒロインが図書隊に入隊したのは正化31年=2019年とされていた。

 国家にとって都合の悪いもの、批判するものを検閲し、暴力で排除する点は、戦時中の軍部や警察を連想させる。だが、そんな過去ばかりでなく、今年開催されたあいちトリエンナーレでは、慰安婦像の展示などをめぐって脅迫が行われ、政治家や公的機関にも表現規制を助長する動きがみられた。パラレルワールドだけでなく、実質的な検閲が、こちらの世界で現在進行形の問題になっているのだ。架空の2019年をみつめることは、現実の2019年を考えることにつながる。

 伊藤計劃が2008年に原作を刊行し、2015年にアニメ映画化された『ハーモニー』は、21世紀後半を舞台にしていた。医療が発達し誰も病気で死ぬことがない生命至上主義が、むしろディストピアになる逆説の社会を描いている。同作では生命至上主義に至る以前に、全世界が戦争と未知のウイルスに見舞われる。その破滅的な「大災禍(ザ・メイルストロム)」は、2019年に起こるとされていた。すでに12月も残り少ない。何ごともないまま新年を迎えられることを願うばかりだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『ディストピア・フィクション論』(作品社)、『意味も知
らずにプログレを語るなかれ』(リットーミュージック)、『戦後サブカル年代記』(
青土社)など。

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