2019年の年間ベスト企画
年末企画:宇野維正の「2019年 年間ベスト映画TOP10」 映画の役割がクリアになってきた1年
アートやカルチャーが人々を進歩的な考え方に導くことは称揚すべきことだし、それが世界を変えていく可能性を自分も信じたい。しかし、映画はその歴史やアートフォームの成り立ちから、それがフィルム撮影であろうとデジタル撮影であろうと、ある種の復古主義と切っても切れない関係にあることを、『ジョーカー』を観ても、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観ても、『運び屋』を観ても、『さらば愛しきアウトロー』を観ても、『マリッジ・ストーリー』を観ても、『荒野にて』を観ても、『アイリッシュマン』を観ても、強く感じずにはいられなかった。きっと新しいテーマ、新しいナラティブ、新しいストーリーテリングに適しているのは映画よりもテレビシリーズのフォーマットで、そこで十分にその達成が成されているからこそ、映画の役割がクリアになってきた1年だったと言えるかもしれない。日本の外を見渡してみても、そのように映画との懐かしくも新しい関係を取り交すようになった作家(例えば、『さらば愛しきアウトロー』のデヴィッド・ロウリーも『荒野にて』のアンドリュー・ヘイもそこに意識的な作家だ)やクリティックや観客は自分だけじゃないことがわかる。
ただ、それだと映画オンリーのリストがとめどもなく後ろ向きになってしまうので、1位は呆気にとられるほどすべてが新しかった『スパイダーマン:スパイダーバース』にした。9位と10位は偏愛の対象であるホラー枠。ジョーダン・ピール『アス』は極めてスマートでエンターテインメント性も高い「現在の映画」だったが、ジャンル映画としての純度や強度においてチャン・ジェヒョン『サバハ』(日本ではNetflixで配信)を、その革新性と神秘性においてルカ・グァダニーノ『サスペリア』を優先させた。
TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム
・8月9日=シャロン・テート殺人事件から50年 タランティーノ最新作のカギとなる衝撃の事件を解説
・イーストウッドが描く前代未聞の実話! 宇野維正がこの春必見の『運び屋』をレビュー
■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)、2020年1月30日発売。Twitter
■リリース情報
『スパイダーマン:スパイダーバース』
Blu-ray&DVD発売中
プレミアム・エディション【初回生産限定】9,200円+税
ブルーレイ&DVDセット【初回生産限定】4,743円+税
4K ULTRA HD&ブルーレイセット【初回生産限定】6,800円+税
IN 3D【初回生産限定】5,695円+税
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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