スティーヴン・キング原作映画、成功の秘訣は? 『IT/イット』『ドクター・スリープ』から考える

S・キング原作映画、成功の秘訣は?

絶妙なバランスを保った『ドクター・スリープ』

 スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』しか鑑賞していない人にとって、『ドクター・スリープ』は、その存在意義を問いたくなるような作品かもしれません。『シャイニング』との関連性は薄く、ラストに登場する展望ホテルでさえ、まるで辻褄合わせのねじ込みに見えたでしょう。しかし、本作は小説版を丁寧に映像化している上に、最後は『シャイニング』問題を「展望ホテルを焼き払う」というキング小説のラストに合わせる形で収束しています(『シャイニング』問題とは:スタンリー・キューブリックが原作の内容を大幅に変更したことで、スティーヴン・キングが激怒。今なおキューブリックの『シャイニング』を酷評している。原作と映画で決定的に違う部分は、ラストで、キューブリックは氷で終わり、キングは火で終わる。)。

 これは、マイク・フラナガン監督が、小説の大ファンである一方で、キングを盲目的に崇拝するのではなく、彼の小説はそのまま映画化しても面白さが半減してしまうということを理解していたからでしょう。

 また、映画『ドクター・スリープ』を映画化する上で「キューブリックファンにもキングファンにも納得してもらえるものにする」と決めていたのもプラスに働いたと思います。映像化するとボヤけてしまう部分は潔く削ぎ落とした上で、キューブリックの『シャイニング』からは重厚感のある音楽を、キングの原作からは、丁寧に書かれたキャラクターアークと目を覆いたくなるような残虐描写と「回復」というテーマを引っ張っています。

 物語の中盤で登場する残虐シーンは映画史に残るほど残酷で、その迫真の演技は脳裏から離れず、断末魔の叫び声は耳から離れることがありません。このやりすぎともいえるシーンが全体を引き締めているため、ジャンプスケアのような、大きな音と衝撃で怖がらせる安っぽい方法で観客を驚かせる必要がなく、最後まで低空飛行の怖さを感じ続けることができていると思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる