スティーヴン・キング原作映画、成功の秘訣は? 『IT/イット』『ドクター・スリープ』から考える

 スティーヴン・キングの小説を原作とする作品が先月から来年1月にかけ、立て続けに3作も公開されます。1990年公開『IT』のリメイクである『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』、『シャイニング』の続編である『ドクター・スリープ』、そして1989年の『ペット・セメタリー』のリメイクです。どの監督もキングの熱狂的なファンですが、この3作を比較すると、近年のキング原作作品にみる映像化の難しさと、成功の秘訣のようなものが見えてきました。

スティーヴン・キング小説の特徴

 スティーヴン・キングの小説はホラーにジャンル分けされますが、一般的なホラーとは異なります。キングが得意とするのは、登場人物を徹底的に掘り下げることで、読者に登場人物の直面している恐怖を共感してもらうスタイルです。また大きく分けると、共感できるからこその恐怖、全く共感できない異質に対する恐怖というパターンがあり、映像化する上では後者が比較的簡単と言えます。

 『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は、登場人物を丁寧に掘り下げて怖がらせるという点では失敗しているかもしれません。ペニーワイズが人々の弱さや恐怖につけ込むという設定なので、ルーザーズクラブ全員の心の弱さを掘り下げるのは作品上重要です。しかし、映画という限られた時間の中では、それぞれのストーリーを掘り下げることができず端的になってしまい、「観客に共感してもらう」とは程遠い結果になってしまいました。

キング小説を映画化する上での重要点と誤算

 スティーヴン・キングの小説を映画化する上で最も大切なのは、作品を読んで感じた恐怖をそのまま映像化して観客にも共有してもらおうと思えば思うほどつまらなくなっていくのを理解することだと思います。キングの描く恐怖を映像に落とし込むことは非常に難しいのです。

 すでに書いた通り、キングの作品は「日常の中に潜む違和感」から始まり、「共感力で読者の恐怖を引き出す」のを得意としています。しかし、その方法では視覚的に緩い絵の連続になってしまい、刺激を求めて劇場に足を運んだ観客を落胆させてしまいかねません。また、小説に書かれたことを素直に映像化すると、ファンタジー要素が強く出てしまうこともあります。

 そこで、作品を引き締めるため、予測しなかったタイミングで大きな音を出すといったジャンプスケアを多用して一時的に観客を驚かすといった荒業に出る監督も少なくありません。しかし、ジャンプスケアは諸刃の剣。安っぽい手法ですし、多用されると観客も苛立ちを感じ始めます。その点、『ドクター・スリープ』は、キング作品の長所も短所も、『シャイニング』を取り巻く問題も熟知した上で巧妙に作られた作品といえます。

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