【ネタバレあり】『アナと雪の女王2』に見る“アメリカ映画”らしさ 変革者=エルサが向き合った共同体の暗部

『アナ雪2』に見る“アメリカ映画”の精神

 このシリーズが魅力的であるのは、エルサがつねに、共同体にとってある種の異物である点だ。社会は無言の同調圧力をもって「見て見ぬふりをせよ」「余計な詮索を止めよ」と指示するが、エルサはその命令に背き続ける。だからこそ作品は痛快であり、エルサは変革者なのだ。たとえ小さな組織や集団であっても、それが間違っていることを誰もが知りつつ、口に出さずにいる問題や悪習が必ずある。しかしエルサは、『グリーンブック』や『ブラック・クランズマン』の登場人物たちがそうであるように、慣習にとらわれず思うまま行動し、暗黙の了解をあっさりと乗り越えてしまう。北方の森は、過去を詮索してくれるなとばかりに深い霧でみずからを閉ざし、来る者を拒絶するが、エルサは臆することなく森へ入っていく。彼女の旅は、共同体が再生するために必要なやり直しの契機となるのだ。

 エルサが自分の属する共同体の暗部を探る旅は、いっけん暗いものに思えるが、決して悲壮ではない。テーマ曲「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」の高揚感は、前作のテーマ曲と同様にエルサを鼓舞し、可能性に満ちた世界への旅立ちを彩るパワフルなものだ。共同体の犯した罪と向き合うことは、結果的にポジティブな未来へつながる。観客の胸がすくのは、硬直した社会に風穴を開ける役割を担う女性のいきいきとした姿であり、その公平さである。こうした作品が小さな子どもたちに鑑賞され、彼ら/彼女らの価値観を築く礎となることを喜ばしく思う。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

■公開情報
『アナと雪の女王2』
全国公開中
監督:クリス・バック、ジェニファー・リー
声の出演:クリステン・ベル、イディナ・メンゼル
日本語吹替版:松たか子(エルサ)、神田沙也加(アナ)、武内駿輔(オラフ)、原慎一郎(クリストフ)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 Disney. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/anayuki2.html

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