『麒麟がくる』で沢尻エリカの代役に決定 川口春奈演じる“濃姫”を、過去出演作から予想
これまでの川口の出演作を振り返ると、少女漫画原作のラブコメディなど、“軽い”印象の役柄が多かった。近年も『ヒモメン』で、窪田正孝演じる彼氏が部屋に他の女性を連れ込んだかもしれないと疑っているとき、包丁を持って「殺すよ?」と不気味な笑顔を浮かべたときの表情や、『イノセンス 冤罪弁護士』で、坂口健太郎演じる先輩弁護士の変人ぶりに癇癪を起こす場面などが印象的で、とにかくコメディの反射神経が良く、男性にこびず、じめっとしていない健康的な女性というイメージ。しかし、濃姫と言えば、自分の意志とは関係なく信長の元に嫁がされ、兄に父を殺され、さらには夫を自分の従兄弟(光秀)に殺されるという戦国時代の悲劇を全部乗せにしたような女性だ。その絶望感や葛藤を見せるシーンもあるはずだが、どこまで真に迫って演じられるか。
しかし、川口は映画の最新出演作『九月の恋と出会うまで』では、高橋一生演じる男性と恋に落ちながらも悲劇的な運命によって離れてしまうヒロインを演じ、彼に別れを告げられる場面やラスト、海辺で彼を思うシーンでは観客を引き込むエモーショナルな演技を見せた。大河でも愛する人との別離、死別などの場面を充分に演じられるはずだ。
ちなみに、濃姫役は2014年の大河ドラマ『軍師官兵衛』では内田有紀が、1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では菊池桃子が演じていた。筆者にとってのベスト濃姫は、1983年『徳川家康』での藤真利子。ここでの濃姫は役所広司演じる信長と同志のような絆で結ばれているが、子ができず、信長から側室を作ることを宣言されたとき、平気なふりをして「さすがはマムシ(道三)の娘であったわ」と信長から讃えられる。だが、最後は突っ伏して泣いていた姿が忘れられない。現在、『いだてん』では「これは極論だがね」の老獪な嘉納治五郎となった役所も、当時まだ20代。若々しく野性的な信長を演じ、本能寺の変で夫婦共に戦って死ぬシーンまで、ロマンティックの極みだった。
また、濃姫はファムファタール的な女性として描かれることもある。夫の信長と従兄弟の光秀の2人から愛される存在であり、光秀が彼女のために本能寺の変を起こすというパターンもあるほどだ。2006年の『功名が辻』では和久井映見演じる濃姫が、信長の狂気におびえ、光秀と結ばれていたら……と嘆く場面もあった。『麒麟がくる』がこの三角関係をどう描くかは分からないが、沢尻に期待されていたものが“運命の女”としての魅力だとすると、男性を惹きつける色気を川口が出せるかもポイントになる。こちらについては未知数。これまでのイメージを覆す演技を期待したい。
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■放送情報
2020年 大河ドラマ『麒麟がくる』
2020年1月より、放送予定
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合 将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原 拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志