桜田通×笠松将が語り合う、映画『ラ』で培った役者としての姿勢「もっといいものを作るために」

桜田通×笠松将『ラ』で培った信頼関係

笠松「間違いなく財産になる作品」

ーー先程、「過酷な現場」と笠松さんが言いましたが、他作品の現場と何が違ったのでしょうか。

桜田:これまで出演させていただいたどの作品も全力でぶつかっていますが、『ラ』は今までで一番、本当に妥協しなかった現場でした。これは誇張ではなく、お芝居に納得がいかなければ、何時間でも半日かけてでも話し合ってから本番に臨む現場だったんです。当然、予算やスケジュールの問題があるわけですから、どこかで線引きをしなくてはいけないのが普通だと思います。でも、それが本作にはなかった。決して予算が潤沢な作品ではないはずなのに、それができたのも高橋監督の意地と情熱があったからです。スタッフ・キャスト、みんなが渋々付き合うのではなく、自ら望んでその思いに突き動かされていた。こんな現場は後にも先にも、もうないかもしれません。

笠松:僕は劇場公開もされていないような自主映画にもこれまで参加してきたので、『ラ』の現場はどこか懐かしい空気を感じました。規模は小さいとはいえ、通くんを中心に、映画やドラマで観てきた役者陣も参加していて、予算もついている。なのに、ここまで自主映画的な自由さがある作品はめったにありません。みんなが意見を出し合いながらひとつになって作品を作っていることがうれしかったし、楽しかった。ほかの現場では、自分以外の役者さんが監督と話をしているとき、一緒に聞いておこうとはなかなか思わないのですが、『ラ』は高橋監督と通くんの話は自然と聞いてしまうところがあって。共演した役者さんたちの中でも、通くんほど突き詰めていく人はいなかったように思います。だから現場は毎日刺激的でした。

ーー慎平と黒やんがぶつかり合うシーンが劇中に3度あります。それぞれで気持ちの在り方がまったく違ったかと思うのですが、どんな準備をして挑みましたか。

桜田:現場に入る前に、劇中で描かれる1年以上前の物語を皆で話し合いました。なぜ慎平たちのバンドが解散したのか、バンドはどんな形で始まったのか、慎平と黒やんの間に何があったのか、リハーサルの段階でとことん突き詰めたんです。だから、現場に入ったときに、このシーンで慎平はどんな気持ちになっているんだろう? といったような疑問は一度もありませんでした。

笠松:確かにそれはなかったです。

桜田:いい意味で際立ったエピソードがなかったというか。どのシーンもフラットに臨めただけに、「ここが一番思い入れがある」というものが逆にないんです。

笠松:僕もその部分はあるのですが、やっぱり黒やんとして最後のシーンは思い入れがあります。あのシーンは撮影も本当に最後だったんです。作品の良し悪しとは別に、撮影の最後は「やっと終わる」という気持ちになることがほとんどです。でも、『ラ』に関しては、「まだ終わりたくない」という思いがありました。ここまで作品に向き合うことができる現場はなかったので、もっと作っていたいと自然に思ったんです。当然、その時点では映画としてどう完成するのか分からないわけですが、僕にとって間違いなく財産になる作品だと思いました。

ーー数多くの映像作品が日々作られていく中で、『ラ』のような作品の作り方は非常に貴重な状況になっています。

桜田:作品によってスケジュールや予算が違うわけですから、『ラ』のようにとことん妥協しないやり方が必ずしも「正解」ではないと思っています。それでも、いろんな都合で、作品にとって最良とは言えない選択をしなくてはいけない現実が、現在の映像業界にはどうしても多いように感じます。その意味において、『ラ』は「正解」ではなくても、ひとつの在り方として何かを残すことができたのではないかと。それもとにかく高橋監督がとんでもない方だったからですね。

笠松:本当にすごかったね。

桜田:高橋監督は水を得た魚のように現場では生き生きとしていて、だからこそみんなも付いていけた。ただ、あそこまで楽しそうな監督ってなかなか出会えないんです。やはり、いろんな制約を受ける部分はどうしてもありますから。でも、高橋監督はそんな制約をも飛び越えて、プロデューサーからの指示も跳ね返してしまうような感じで(笑)。

笠松:今の時代に反していたよね(笑)。

桜田:みんながみんな、高橋監督のような行いになったら成り立たなくなってしまうと思います。でも、世の中にある作品のワンシーンでも、ワンカットでも、こだわれる時間を少しでも増やすために何をしなければいけないのか。それを考え続けることはすごく大事だと思っています。そうじゃないと今までと同じやり方だけを続けて、でき上がるものも変わらなくなってしまう。そうならないためにも僕たち役者もできることをやっていかないといけないと思います。風穴を開ける一番の有望株はここにいる笠松将ですね。

笠松:いやいや、良いこと言っていたのにここでふる?(笑)。改めて『ラ』で得た経験を考えてみると、みんな次のステップに進めた感じがするんです。ここを最低基準に、もっともっと先に進んでいける、もっといいものを作ることができる、そんな思いを抱くことができたのが本当に大きいですね。

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