同性愛行為が“違法”のケニアで描く、二人の少女の愛 『ラフィキ:ふたりの夢』がもたらした希望

『ラフィキ:ふたりの夢』がもたらした希望

 『ラフィキ』の舞台であるケニアをはじめ、多くの地域で同性愛が禁忌とされるアフリカで、印象的なレズビアン映画が他にもある。南アフリカ共和国は、アフリカ諸国のなかでも異質であり、2006年に同性婚を合法化するなど性に寛容な姿勢を見せているが、『あかね色のケープタウン』(2007年)は、そんな南アフリカ共和国を舞台に、1950年代の人種隔離政策下における女性同士の恋愛が描かれる。ケープタウンでカフェを営む活発な女性と、抑圧的な夫と暮らす女性の行く末は、過酷な状況下でも希望を感じさせるものだった。『ラフィキ』の彼女たちもまた、同じく未来へ向かうひたむきさを持ち、明るいその先を思わせる。

 そんな前向きなケナが口にする「本物になれる場所へ行きたい」という台詞。今自分が生きている場所では、ありのままの自分として生きていくことも、愛すべき者と生きていくことも、決して叶わない夢であることをわかっている。だからこそ、「ここではないどこかへ」と願う。この「ここではないどこかへ」という言葉が何度も聞こえてくる映画に、アフリカ大陸とほど近い国であるイランを舞台にしたレズビアン映画『Circumstance(原題)』(2011年)がある。同性愛によって極刑さえあり得るほど厳格なイランでは、二人の女性が恋愛することは命懸けと等しい。同作では、ゲイの政治家ハーヴェイ・ミルクを題材にした『ミルク』(2008年)が重要なモチーフとして扱われる。劇中の「セックスは人権」という台詞からも示されるように、「個人的なことは政治的なこと」なのだ。そう考えてみれば、『ラフィキ』の二人の恋愛と彼女たちの父親の政治活動とが協働して物語が進められていくのは、そこにセクシュアリティとポリティクスの結びつきの強さを浮かびあがらせるためであるようにも思える。

 映画は、「みえなかったこと」を立ちあがらせる。「みてこなかったこと」を目の前に差し出す。イギリスの映画批評メディア“Little White Lies”は、今年のカンヌ国際映画祭でLGBT+をテーマにした映画に贈られるクィア・パルム賞を受賞したレズビアン映画『Portrait of a Lady on Fire(原題)』(2019年)に対し、多くのメディアが“レズビアン映画”と表現していないことを指摘した(※5)。映画宣伝においては、“レズビアン”や“女性同性愛”という言葉が、時に隠蔽されてしまう。しかし、まだまだ過渡期の現在は、映像によって、言葉によって、その存在が表象されなければならないフェーズの只中にある。ジキ役のムニヴァは当初、同性愛者の役を引き受けることを躊躇っていたが、彼らの存在を可視化することの重要性を理解したという(※6)。ムニヴァが「みせること」を決心したように、私たちもまた「みること」について、考えなければいけないのだろう。

 『ラフィキ』は、「私たちのことがみえているか?」と問いかける。そんな映画の問いをうけ、私たちは自らに問いかけかえす。――「彼女たちのことをみようとしているか?」

参考

※1…The Guardian, “Meet the director of the Kenyan lesbianromance who suedthe government who banned it”
※2…The Hollywood Reporter, “Kenyan Director Wanuri Kahiu Is Fun, Fierce, Frivolous and Timely”
※3…PRIDE, “18 Awesome Lesbian Movies Where No One Dies at the End”
※4…ボーゼ・ハドリー『ラヴェンダースクリーン―ゲイ&レズビアン・フィルム・ガイド』1993年, 白夜書房
※5…Little White Lies, “Why films about lesbian characters should be called lesbian films”
※6…『ラフィキ:ふたりの夢』プレス資料

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『ラフィキ:ふたりの夢』
11月9日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:ワヌリ・カヒウ
出演:サマンサ・ムガシア、シェイラ・ムニヴァ、ジミ・ガツ、ニニ・ワシェラほか
配給:サンリス
2018年/ケニア、南アフリカ、フランス、レバノン、ノルウェー、オランダ、ドイツ/英語、スワヒリ語/カラー/82分/日本語字幕:今井祥子/スワヒリ語監修:チェプクオニ・ジャスタス/原題:Rafiki
(c)Big World Cinema.
公式サイト:http://senlis.co.jp/rafiki/
公式Twitter:@MovieRafiki
公式FaceBook:https://www.facebook.com/rafiki.yume.jpn/
公式Instagram:Rafiki.jpn

11.9(土)公開 映画『ラフィキ:ふたりの夢』予告編

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