ディズニーの映画市場独走の背景には何がある? フランチャイズ作品の不振とともに考える

 2019年7月1日、ハリウッド業界誌The Hollywood Reporterが「2019年半ばの興行収入が約10%ダウン」という見出しの記事を発表した。北米の6月30日までの興行収入が昨年比で9.4%落ち込み、フランチャイズ作品の立て続けの不振によって、サマーシーズンのチケット売上も7.3%減で推移していると報じるものである。

『アナと雪の女王2』(c)2019 Disney. All Rights Reserved.

 ハリウッドでは「サマーシーズン」というのは、伝統的に5月の最初の金曜日から9月のレイバーデイ(第1月曜日)までとされている。多くのスタジオがこのサマーシーズンに、いわゆるテントポール作品と呼ばれる稼ぎ頭の大作を多数公開するが、今年は『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(北米興収1億1050万ドル)、『メン・イン・ブラック:インターナショナル』(同8000万ドル)、『ペット2』(同1億5826万ドル)など、各スタジオにとって期待はずれに終わった作品も目立つ結果となった。そんな中、ディズニーによる作品が今までのところ今年の興行収入で上位4位までを独占し、トップ10に計5作品が入っているという一人勝ち状態にあることは、非常に特徴的である。サマーシーズンの終わりである9月3日に、もう一つの業界誌The Wrapが出した記事によると、2019年夏の興行収入におけるディズニー映画のシェアは2018年の33%から42%に増えた一方、ディズニー以外の映画の興行収入は、昨年比で24%減を記録したという。メジャースタジオのライバルであった21世紀フォックスを買収したことで、さらにマーケットでのシェアを広げたディズニーであるが、11月には『アナと雪の女王2』、12月には『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の全米公開が控えている。夏のテントポールシーズンが終わり、これからアカデミー賞をかけたアワードシーズンに向かう中、他のスタジオがリリースを予定しているタイトルを眺めてみても、これからこの差を縮めるのは不可能と見て間違いない。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(c)Marvel Studios 2019

 その一方で、『ゴジラ』や『MIB』、『ペット2』など期待作の不振は、これらをリリースした各スタジオにとっては大きな誤算であったに違いない。そのほかにもワーナー・ブラザースとって重要なフランチャイズであろう『レゴ(R)ムービー2』(1億0580万ドル)やユニバーサルの『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(1億7373万ドル)など、過去の成功に基づくこれらのタイトルのバリューは、決して弱いものではないにもかかわらず、前作と比べても、期待されていた数字に遠く及ばない作品は多い。かたやディズニーは『アベンジャーズ/エンドゲーム』(8億5837万ドル)で歴代興行収入の記録を塗り替え、さらに『ライオン・キング』(5億4304万ドル)、『トイ・ストーリー4』(4億3374ドル)など、誰もが知っているタイトルを使って、大きな成功を収めた。筆者は、これらフランチャイズ作品の不振とディズニーの独走の背景には、オーディエンスにとっての、スター俳優と作品それぞれが持つ価値の変化が深く関わっていると考えている。

 ここ5年ほどの配信プラットフォームやスタジオの買収などによって、ハリウッドの勢力図やオーディエンスによるコンテンツの消費行動が完全に様変わりしてしまったのはすでに知られている通りだが、現在の市場様相がある程度定着した2017年以降の北米でのスタジオの興行収入を見ると、若干のシェアの差こそあれ、3年連続で1位はディズニー、2位はワーナー・ブラザース、3位はユニバーサルという、ビッグ3がほぼ固定している。ワーナーは『ハリー・ポッター』シリーズ、レゴ、DCなどのフランチャイズを持ち、ユニバーサルは『ジュラシック』シリーズ、『ワイルド・スピード』シリーズ、イルミネーション&ドリームワークス・アニメーションによるアニメーション作品、低予算ホラーなどで手堅く稼いできた。しかし、例えば2015年はユニバーサルが僅差で1位に立つなど、必ずしもその順位が固定された今のような状況ではなかったわけで、やはりディズニーの一人勝ちの状況は、特にここ数年の傾向であると言っていい。この5年間は「シネマティック・ユニバース」の構築が明確にハリウッドの目指す方向となり、それに基づいた映画の製作が本格化した時期である。同時に、ユニバースを構築できるだけのフランチャイズを持っているスタジオと、持っていないスタジオの明暗がはっきりと分かれることにもなった。

『メン・イン・ブラック:インターナショナル』

 その結果、ハリウッドで作られる映画は1億ドルを超える大規模予算のテントポール作品か、あるいは映画賞狙いの低予算のアート系作品かの二極化が進み、中規模予算の作品は、ほとんど姿を消した。さらにこの動きと同時に、オーディエンスの間では、スター離れが進み、映画がもつブランド優先の傾向が強まっていった。たとえAリストのスターが出ていなくても、ストーリーの質の高さや、その作品のもつメッセージ性がオーディエンスの心をつかめば、『ゲット・アウト』や『クレイジー・リッチ!』のような比較的低予算の作品でも興行収入が1億ドルを優に超えるなど、オーディエンスが映画に求めている要素が以前とは変わったことが、ハリウッドでも認識されている。結果、これまで強力なAリストスターたちによって牽引されてきたフランチャイズ作品の掘り起こしに失敗するスタジオが続出。『MIB』シリーズや『ゴジラ』シリーズなど、よく知られたフランチャイズの新作、というだけでなく、今このタイミングで新作を出してくる意味は何なのか、そのメッセージと特別感をしっかりと訴求しなくてはオーディエンスには受け入れられないという、厳しい状況であることが証明された。

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