木村拓哉が高倉健の仲間入り? 『グランメゾン東京』は今のキムタクでないと成立しない物語
それはこの『グランメゾン東京』においても同様である。パリで二つ星レストランを経営していた尾花は、日仏首脳会談の昼食会で料理を提供した際に、フランスの首脳が料理に使用されたナッツでアレルギーショックを起こして倒れてしまい、管理責任を問われた尾花は、その場でフランスの官僚を殴ってしまい、その場で逮捕。店は解散し仲間はバラバラとなる。
それから三年間、尾花は「日本人シェフの恥」と言われ、落ちぶれた日々を過ごしていたが、女性シェフの早見と出会い、東京で三ツ星レストランを作ろうと再起を図る。そして、ギャルソンの京野陸太郎(沢村一樹)たちかつての仲間に「いっしょに店をやらないか」と声をかけるのだが、京野たちは尾花を恨んでいて、話を聞こうとしない。
まるでSMAP解散の際に、裏切り者扱いされたキムタクの状況をなぞっているかのようである。特に今回はシェフ役という『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)でBISTRO SMAPを楽しんでいた人にとっては馴染みのある職業であるため、SMAP解散以降の木村の近況と重ねて観てしまうのだ。
実は尾花が官僚を殴った背景には理由がある。官僚たちは、店員に移民が多いことからテロを疑い「従業員全員の就労ビザとパスポートを出せ」と言ってきたのだ。尾花はその差別的振る舞いに怒りを感じ殴ったのだ。気持ちは分かる。しかし、なぜ、他の人に話さないのだ? 彼の怒りが状況を悪化させたことは確かで、そこに美学を見出すのは時代錯誤だ。
こういう役を高倉健が演じるのならわかるのだが、木村が演じているのを観ると、彼も時代遅れの古臭い男たちの仲間入りをしたのかと思ってしまう。だがそれは、決して悪いことではない。むしろやっと年相応のおじさんが演じられる俳優になったと言える。
思えば、ここ数年のキムタクは明らかに老けようとしていた。しかしルックスが若々しいため、ビジュアルと役柄が齟齬を起こしており、中途半端な存在となっていた。本作の尾花も外見こそ若く見えるが、人生に対する疲れが表情に見え隠れする。
何より、世間が彼をおじさんとして扱い、甘やかしていないのがいい。
液体窒素調理で作った料理を「化学実験の残骸」(余談だが、このたとえは本作のパキパキした演出にこそピッタリだ)と言ってしまう職人気質の尾花は、料理の腕しか頼るものがない。仕事もなく、仲間もいない尾花は、カッコよかった若者の成れの果てであり、世間は彼に優しくはない。しかし、おじさんになったからこそ、できることもあるはずだ。
早見から「人たらしなおじさんだよね」と言われ「分かってて来るなんて、馬鹿なおばさんだよね」と尾花が言い返すやりとりには、今までのキムタクドラマにはない可能性を感じる。老いたからこそできる戦いもあるのだ。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
日曜劇場『グランメゾン東京』
TBS系にて、10月20日(日)スタート 毎週日曜21:00~21:54
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、及川光博、 沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾
演出:塚原あゆ子ほか
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/grandmaisontokyo/