『HiGH&LOW THE WORST』の“裏主人公”=轟洋介 人望なき男が仲間を手に入れるまで

 村山は過去に、鬼邪高をやめると言い出したことがある。あれを言えたのは、村山が自覚的に自分から神輿に乗った男だからだろう。自分で勝手に神輿に乗って「神輿の上にいる人間にとって何が大事か」を自分で見つけたのだから、降りるのだって自分で判断できる。自ら望んで神輿の上に登った男が、鬼邪高生を満載したダンプカーの上に乗っかって突っ込んでくるのは、「周囲が望んで担ぎ、また自らも望んで担がれる男」としての村山を象徴した絵面である。また、『THE WORST』であのラストを迎えることができたのも、村山のカリスマと自分の行動に対する自覚と責任感あればこそだろう。

 しかし、轟は違う。別にそんなことに執着はなかったのに、勝手に周囲から「神輿としての轟」に不合格判定を押されたのである。またそうである以上、自分から降りることすらできない。なんせ辻と芝が勝手についてきているのだ。名ばかりのトップであるにも関わらず全日の内紛に轟一派として参加せざるを得なかったというのは、轟の不幸を象徴する出来事であると思う。

 映画の『THE WORST』は、そんな轟が望まぬ立場から解放される物語でもあった。思えば、向いてないなりに轟は鬼邪高のトラブルを解決しようとしていた。ドラマでは他校へと単独で殴り込みをかけていたし、一応「鬼邪高全日のトップ」としてやるべきことをやろうとはしていたのである。しかし、自分のことを「どろっきー」と呼ぶ楓士雄が現れ、そしてそんな楓士雄を受け入れることで、轟はようやく神輿の上から降りることができたのではないだろうか。

 さらに言えば、そこまできてようやく轟は「世の中には敵と下僕以外の人間もいる」と身を持って知ることができたのである。ベタな話だがそれは「仲間」だった。普通にやったらクサい内容になる話だと思うが、『THE WORST』はそれを楓士雄のキャラクターと壮絶なケンカと巧みな脚本でサラッと観客に納得させる。このあたりのバランス感覚は、この映画の大きな見どころのひとつだろう。周囲には敵と下僕しかいないと思っている人間が「仲間」を発見する過程を、それをメインに据えた作品でもないにも関わらずスムーズに見せるというのはなかなかできることではない。

 「変わるもの/変わっていくべきものと、それでも変わらないもの」というのは、ハイロー全体に貫く大きなテーマである。それで言えば、轟は今回確実に大きく変化することができたキャラクターの一人である。『THE WORST』は、望まぬ神輿に乗せられた一人の男が、他者を受け入れて仲間と自由を手に入れるまでのストーリーだったのだ。要素と情報量が多すぎて撹乱されているものの、轟に関して言えば驚くほど真っ当なビルドゥングスロマンである。

 もうかつてのような、触れれば切れるような轟洋介はいないと思うとちょっと寂しいけれど、ラストであの轟が仲間と肩を並べているのを見ると、そんなことを言うのは野暮というような気もする。願わくばこの先、仲間たちと轟がどのような関係を築いていくのか、そして彼がどんな大人になっていくのかを末長く見せてほしい……。高校時代が遠い昔になってしまった人間として、しみじみとそう思うのである。

■しげる
ライター。岐阜県出身。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

■公開情報
『HiGH&LOW THE WORST』
全国公開中
企画プロデュース:EXILE HIRO
監督:久保茂昭
アクション監督:大内貴仁
脚本:高橋ヒロシ/平沼紀久、増本庄一郎、渡辺啓
出演:
【鬼邪高校・全日制】川村壱馬、吉野北人、福山康平、鈴木昂秀、龍、佐藤流司、うえきやサトシ、神尾楓珠、中島健、前田公輝
【鬼邪高校・定時制】山田裕貴、鈴木貴之、一ノ瀬ワタル、青木健、清原翔、陳内将
【鳳仙学園】志尊淳、塩野瑛久、葵揚、小柳心、荒井敦史、坂口涼太郎
【希望ヶ丘団地 幼馴染】白洲迅、中務裕太、小森隼、富田望生、矢野聖人
企画制作:HI-AX
配給:松竹
製作:『HiGH&LOW』製作委員会
(c)2019「HiGH&LOW THE WORST」製作委員会 (c)高橋ヒロシ(秋田書店) HI-AX
公式サイト:https://high-low.jp/movies/theworst/

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