シム・ウンギョンの魅力は“映画そのもの” 『サニー』から『ブルーアワーにぶっ飛ばす』までを振り返る

 だが何より彼女の魅力は、日本でもリメイクされた人気映画『サニー永遠の仲間たち』『怪しい彼女』において見せた、誰もが好きにならずにはいられない天真爛漫な可愛らしさにある。

 『サニー永遠の仲間たち』ではヒロイン・ナミの高校時代を演じた。なによりこの映画の中で愛おしくてしかたがないのは、高校時代のナミの切なく甘酸っぱい青春模様なのである。憧れの人を前に頬を赤らめて言わなくていいことばかり言ってしまうナミが、彼の優しさに浮き足立ってスキップして帰る時、一部始終を見ていた、全く関係のない人々までもがはやし立てる温かさ。ヘッドホンを巡る甘く切ない失恋。ナミのフワフワとした柔らかい、それでいて弾けるような、仲間たちから「タコ踊り」とからかわれるほどの軽やか過ぎるステップは、恋のトキメキと青春の沸き立つような喜びそのものに他ならず、観客の多くが自身の初恋の記憶を重ねずにはいられないのである。

『サニー 永遠の仲間たち』デラックス・エディション DVD

 『怪しい彼女』は突然20歳の姿に若返ってしまった頑固で毒舌な70歳の女性が、青春を取り戻そうとするコメディであるが、シム・ウンギョンは70歳の心を内に秘めた20歳、オ・ドゥリを演じた。しっとりと歌い上げる歌声があまりに素晴らしいのももちろんだが、手に入れた若さという特権を存分に利用して、服装や髪型を変え、コロコロと表情を変え溌溂と日々を楽しみ、若者の予期せぬアプローチに狼狽する様はとにかくキュートである。70歳の心を持つ20歳は、こんなにもピュアで新鮮な存在になり得るのかと納得し、驚愕する。また、彼女がつけた偽名が『ローマの休日』に由来していることから、期限付きの時間だろうことが予測できる切なさも相まって、いつかは消えてしまうヒロインの姿がどうにも愛おしい。

 前述した2作のシム・ウンギョンがあまりに自由で軽やかなのは、どちらもヒロインにとっての「輝かしい過去」を演じているからだ。もしくは、「なりたかった自分」を。

 『ブルーアワーにぶっとばす』のシム・ウンギョンは、その系譜に属する。社会のあらゆる束縛からも重力からも解放されているかのような、不思議で自由な、子供のような存在。彼女の笑顔を見ていたら誰もが好きにならずにいられない。そのしなやかに動く身体全てが、映画そのものであるかのような魅力を持っている。

 一体彼女が何者であるのかは、ぜひ、映画館で確かめていただきたい。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
テアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開中
出演:夏帆、シム・ウンギョン、渡辺大知、黒田大輔、上杉美風、小野敦子、嶋田久作、伊藤沙莉、高山のえみ、ユースケ・サンタマリア、でんでん、南果歩
監督・脚本:箱田優子
製作:中西一雄
企画・プロデュース:遠山大輔
プロデューサー:星野秀樹
音楽:松崎ナオ
製作:「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給:ビターズ・エンド
2019年/日本/カラー/アメリカンビスタ/DCP5.1ch/92分 
(c)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会
公式サイト:http://blue-hour.jp/

関連記事