『ジョーカー』ホアキン・フェニックスに拍手喝采 過去最高の最狂ヴィランはどう生まれた?

 その後、『スーサイド・スクワッド』(2016)でジャレッド・レトが、テレビシリーズ『GOTHAM/ゴッサム』(2014-)ではキャメロン・モナハンが、またアニメやゲーム等ではマーク・ハミルがボイスアクトを務めたりしているが、近年のジョーカー像を確実に決定づけたのは、間違いなく『ダークナイト』であり、ヒース・レジャーのそれだ。そしてこのタイミングで登場したのが、ホアキン・フェニックスを主演に迎えた本作『ジョーカー』である。

 トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』は、世間に見放された孤独な男アーサーが、次第に悪へと変貌していくさまを描いたものだ。原作でも明確には語られてこなかったジョーカーの誕生譚を、世界最高峰のスタッフ、キャストで描いた意欲作だ。これまでの映像作品では、ヴィランすなわち悪役としてのジョーカーに焦点を当ててきたが、今作『ジョーカー』では、コメディアンを夢見るアーサー・フレックという男にスポットを当てている。愛を希求し、己の受難に苦悩するアーサーは、世の中の逆風にさらされ、徐々に常軌を逸していく。そんな難しい役柄を、ホアキン・フェニックスは堂々と、鬼気迫る演技で体現している。

 なぜ、フェニックスが抜てきされたのか。企画初期には噂レベルの報道として、レオナルド・ディカプリオへのオファーが検討されていたという。しかし監督のフィリップスいわく、ジョーカー役はフェニックス以外まったく考えていなかったそうだ。脚本も、フェニックスを思い浮かべて書き上げたというから、フェニックスの起用はかなり初期の段階から念頭にあったのだろう。とはいえ、フェニックスへのオファーは一筋縄ではなかったようで、説得には何か月もの期間を要したという。フェニックスは過去に、『アベンジャーズ』(2012)での新しいハルクと、『ドクター・ストレンジ』(2016)の主演オファーを受けているが、すべて実現はしなかった。最終的に、ハルクにはマーク・ラファロが、ドクター・ストレンジにはベネディクト・カンバーバッチが起用され、フェニックスのマーベル映画への出演は幻となった。

 ホアキン・フェニックスは、いわゆるビッグバジェットな映画にはあまり興味がないようで、おもにインディペンデントな作品に好んで出演している。『ドント・ウォーリー』(2018)では、身体麻痺のうえアルコール中毒をも患う、実在の風刺作家に扮したり、『教授のおかしな妄想殺人』(2015)では、ある完全殺人を夢想している孤独な哲学教授を好演したりした。ほかには、実体のない人工知能に恋をしてしまう、冴えない男を熱演した『her/世界でひとつの彼女』(2013)、新興宗教に傾倒していく元軍人を演じた『ザ・マスター』(2012)など、一風変わった役柄が多い。

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