2大人気作品終了で変化の兆し? エミー賞受賞結果から考える、HBO、Netflix、Amazonの戦略

『ゲーム・オブ・スローンズ』が終わっても傑作を生みだし続けるHBO

『ゲーム・オブ・スローンズ』

 日本でも9月28日からスターチャンネルで放送を開始する『チェルノブイリ』が『ゲーム・オブ・スローンズ』に次ぐ10部門を受賞しリミテッドシリーズ部門としては最多受賞している。『ゲーム・オブ・スローンズ』というメガコンテンツなき後もHBOはエミー賞受賞数で王座をキープするのか注目が集まっていたが、『チェルノブイリ』の高評価も加わり今年も最多受賞を果たしている。そして、『チェルノブイリ』だけではなく、その他にも現在シーズン2が本国アメリカで放送中の『サクセッション』もドラマ部門脚本賞を受賞。今年はこの1部門受賞に留まっているが、『ゲーム・オブ・スローンズ』後最も人気のあるHBOドラマとしてすでにシーズン3の製作も決定し、大人気ドラマに成長している。毎週各メディアで振り返りの記事やポッドキャストが更新されるほどの人気で、来年のエミー賞では多数ノミネートが期待される。

 そしてコメディ部門の『バリー』も2年連続多くの部門でノミネートを果たし、クリエーターであり主演のビル・ヘイダーは2年連続主演男優賞受賞。シーズン3の製作をすでに開始しており、HBOの新たな人気シリーズとしての地位を確固たるものにしている。『ゲーム・オブ・スローンズ』と『Veep』という主要作品を失っても質の高い作品を生み出すHBOの地位は揺るいでいない。

政治風刺に別れを告げたコメディ部門とAmazonの躍進

 今年コメディ部門は大転換期を迎えた。冒頭に述べた通り、事前の予想とは裏腹に『Veep』が最終シーズンにして初めて無冠で終わり、代わりに躍進したのは007の次回作脚本チームにも抜擢されているクリエーター、フィービー・ウォーラー=ブリッジの『フリーバッグ』(Amazon Original)である。同作は今回、作品賞だけでなく、監督賞、脚本賞、主演女優賞を獲得し、コメディ部門で5部門獲得した史上5番目の作品となった。事前の予想でも多くのメディアが『Veep』が受賞すると思うが、受賞してほしいと願うのは『フリーバッグ』と挙げていた。それが今回見事実現し、ある意味世の中が求めていた結果となったとも言える。

 どちらも約30分のコメディドラマだが、『Veep』はこれまでずっと人気だった政治風刺を扱うドラマであり、一方で『フリーバッグ』は30代の女性が人生で感じる微妙な感情を具体化したとてもパーソナルな作品である。コメディ部門ノミネート作品を振り返ると、7作品中5作品(『フリーバッグ』『バリー』『ロシアン・ドール』『マーベラス・ミセス・メイゼル』『グッド・プレイス』)が、これまでコメディでは描かれてこなかった登場人物の人生と心情に迫る表現が多く、一方で誰か(もしくは何か)を露骨に煽ったり風刺したりする表現が少なく、哲学的かつ内省的で深いテーマを扱っている。これまで面白いとされた政治風刺はトーク番組や『サタデー・ナイト・ライブ』等のコントで語られることはあっても、コメディドラマとしての政治風刺を語る時代に終わりを告げたといえる。実際の政治に一番近いと言われた『Veep』はもはや、今現在起きているアメリカ国内の政治情勢がフィクションを超えてきており、表現として限界だったのかもしれない。

 そんな中新たなコメディドラマ分野の躍進に一役買ったのが『フリーバッグ』と『マーベラス・ミセス・メイゼル』を輩出したAmazonだ。Amazonはノミネート数こそNetflixとHBOより少ないが、小売業の原資があるのでより厳選した作品製作への投資にこだわり、今回主要7部門で受賞。主要部門だけでいえばHBOの次に受賞数が多い。エミー賞全体で観ても『マーベラス・ミセス・メイゼル』が『ゲーム・オブ・スローンズ』、『チェルノブイリ』に次ぐ8部門受賞を果たしている。Amazonのドラマは質が高く面白いと宣伝するには十分な結果だ。

 『ゲーム・オブ・スローンズ』と『Veep』の2大人気作品が終了し、Netflix、HBO、Amazonそれぞれの戦略も滲み出た結果となった2019年エミー賞。すでに来年のエミー賞を視野に、多くの作品が配信予定であるが、1年後はどのような受賞ラインナップになっているか全く想像できないほど価値観の移り変わりが早い現在において、製作陣だけでなく各ストリーミングサービスの戦略が今後の明暗を分けると言える。今後Disney+やApple TV+などあらたな大型サービスも生まれ、より大混戦が予想されるエミー賞、来年はいったいどうなるのか今から楽しみである。

参照

https://deadline.com/2019/09/hbo-holds-off-netflix-to-capture-most-total-emmy-wins-1202740832/
https://variety.com/2019/tv/awards/netflix-hbo-2019-emmys-awards-game-of-thrones-1203341183/
https://www.hollywoodreporter.com/live-feed/succession-renewed-season-3-at-hbo-1233313
https://www.youtube.com/watch?v=zBsh7Byu044
https://www.goldderby.com/article/2019/emmy-award-winners-full-list-all-categories-emmys-nominees-news/
https://twitter.com/BensOscarMath/status/1175968746537549825?s=20

■キャサリン
Netflix、Amazonプライムビデオ等のストリーミングサービスで最新作を追いかける海外テレビシリーズウオッチャー。
webメディアなどで執筆。
note:https://note.mu/hitoto04
Twitter:https://twitter.com/Hitomi_forward

■リリース情報
『ゲーム・オブ・スローンズ 最終章』
10月2日(水)ブルーレイ&DVDレンタル開始
12月4日(水) ブルーレイ&DVD発売
【初回限定生産】ブルーレイ コンプリート・ボックス ¥11,818 +税
【初回限定生産】 DVD コンプリート・ボックス ¥10,000 +税 
レンタル ブルーレイ&DVD Vol.1~5 
※Vol.1のみ2話収録
『ゲーム・オブ・スローンズ』コンプリート・シリーズ
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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