星野源から漂う知性と品格 俳優兼ミュージシャン活動で確立した独自の立ち位置
星野源主演の時代劇『引っ越し大名!』(犬童一心監督)は、江戸幕府のお達しによって、姫路から大分の長距離を大所帯で移動しなくてはならない者たちの一大引っ越しプロジェクトを描いている。星野の役は突如“引っ越し奉行”に抜擢された片桐春之介。あだ名は「かたつむり」で、引っ越し奉行になる前は、藩の書庫番として日がな一日、書庫に籠もっていた。それだけに書庫のことは知り尽くしていて、探している本がどこにあるかすぐに分かる、ある種の特殊能力の持ち主だ。
突然、引っ越し奉行に任命されて最初はうろたえながらも、持ち前の知性と教養を駆使していい仕事をしていく。幼馴染の腕っぷしの強い武士役の高橋一生は珍しく話を散らかす係で、彼を中心に周囲の人がドタバタしているなか、春之介は冷静に物事を見極め、いざとなると頼りにもなる。その一方で、元引っ越し奉行だった人物を父に持つ、未亡人・於蘭(高畑充希)に不器用な恋心を抱きながらなかなか行動に移せない。そんな弱点ももちながら、真摯に任務を遂行する春之介の姿によって、映画はコメディながら不思議な品格が漂う。おバカな人が純粋に生きて、それが感動を呼ぶという作品もあるが、星野源の場合、コントもやっているけれど、知性と教養のある者が己れの限界を越えていこうとする、ノーベル賞受賞者の感動実話が似合う気がしてならない。
星野源はミュージシャンであり俳優であり、どちらのジャンルでも大活躍し、そのうえエッセイ等も書いていてそれがまた面白い。作詞もするから文才が備わっているとはいえ、ずいぶんと多才だ。その脳みそのしわはきっと細かく、たくさんの情報を瞬時に処理しているのだろう。シャープな弓なりの上瞼に覆われた瞳をのぞくと、脳みそが精密機械のように動いているようだ。インタビューをしたことがあるが、質問をふむふむとしっかり聞いているその姿はまるで、人々の嘆願を聞いている良い神さま、良い殿様のようだった。それはちょっと大げさだが、この人は何を聞きたいのか受け止め、何を答えてほしいのか、というところまで考えが及んでいるような知性を感じたのだ。それゆえ、彼の鋭い瞳は嘘やいいかげんは許されない、たちまち弾かれてしまいそう。しかもそれが世間的な正しさが基準ではなく星野基準。独自の基準が、ものごとを手際よく鮮やかに仕分けしていく。その基準に我々はひれ伏すしかない。基準が独自だからこそ、映画『地獄でなぜ悪い』みたいにときとして狂気の方向に突出したり、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)みたいに仕事はできるが女性と触れ合うのは苦手というオクテ方向に突出したり、極端なところも魅力と思う。明るくさわやかな朝ドラの主題歌「アイデア」の、あとから発表されたダークサイドの深さが最たるもの。