10分以上は無理!? 「スマホファースト」環境に対応する、ショートアニメーションの台頭を考える 

ショートアニメの台頭の影響を考える

「スマホファースト」環境が変えたアニメ

 では、こうしたショートアニメーションの台頭の背景には、いかなる要因があったのだろうか。

 ただ、これはすでにいろいろ指摘されていることではあるが、そのひとつには、アニメファンの視聴環境の変化がある。たとえば、さきほどのショートアニメーションの多くの放送が始まった2015年には、日本でNetflixの配信がスタートしている。翌2016年末にはAmazonプライム・ビデオの配信も始まった。すでにウェブ環境にすっかり根づいていたYouTubeやニコ動といった動画共有サイトはもちろんのこと、Netflixやアマプラ、そしてアニメ専門のアニメ放題、dアニメストア、東映アニメオンデマンド、バンダイチャンネルといったサブスクリプション・サービスやネット配信サービスは、この時期、スマートフォンで気軽にアニメを観られる環境を当たり前のものにした。またそのことで、10〜20代の若者を中心に、アニメ視聴の裾野を一気に広げていった。こうしたメディア環境の変化は、そこで作られ、鑑賞されるコンテンツのあり方にも必然的に大きな影響を与えることになる。

『リラックマとカオルさん』Netflixにて独占配信中

 こうした文脈から、なかでも現在にいたるショートアニメーションの注目作として、しばしば言及されるのが、まさにNetflixが上陸した2015年から、YouTubeのみの独占配信タイトルとして制作され、無料配信された『モンスターストライク』(2015-)である。『モンスト』は、もともとはmixiが運営するスマートフォンアプリゲームの世界的な人気タイトルであり、そのアニメ版である本作もmixiが単独出資で制作している。さて、この『モンスト』アニメの大きな特徴もまた、1話の尺が約7、8分という、通常のテレビアニメに比較した際の極端な短さである。通常の30分テレビシリーズ枠の本編がだいたい22〜23分くらいなので、およそ3分の1の分量だ。

『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命 』(刊・星海社新書 著・数土直志)

 『誰がこれからのアニメをつくるのか?』(星海社新書)で数土直志が紹介するところによれば、本作のプロデューサーであるウルトラスーパーピクチャーズの平澤直はその理由を、やはりYouTubeという新しい映像プラットフォームの条件と絡めて説明している。つまり、YouTubeにアップロードされている動画のうち、それらの平均的な視聴時間が10分以内に収まっているというのである。

 また、これを裏側から補完する話もある。ある調査によれば、いまの子どもが集中して映像を鑑賞するのに耐えられる時間が、なんとこの『モンスト』と同じ7分ほどなのだそうだ! 嘘だと思うかもしれないが、実際あるとき、勤めている大学で、ひとりの学生が「映画の『ハリー・ポッター』を『金ロー』で見始めたけど、15分くらいで話がわからなくなって飽きちゃって寝た」と友人に話しているのが聞こえてきて、わたしも愕然とした経験がある。このことは、『モンスト』はもちろん、日本アニメ(ーター)見本市から『リラックマとカオルさん』にいたるまで、いまの多くのショートアニメーションが何らかのかたちでモバイル端末やウェブアプリと紐づいていることからもうかがわれるだろう。『ジュラしっく!』にもキャラクターがスマホやSNSをいじる様子がしっかりと描きこまれている。

 すなわち、現在のショートアニメーションの台頭は、いわば若い世代の「スマホファースト」というメディア慣習に最適化した結果なのだ。

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