『いだてん』が問いかけた“民族”とは何か 三宅弘城のセリフに込められた“平和の祭典”への思い

『いだてん』が問いかけた“民族”とは何か 三宅弘城のセリフに込められた“平和の祭典”への思い

 しかし本ドラマは、この時代にまつわる物語から決して目を背けない。五りん(神木隆之介)の口から「表彰式で、優勝した選手の出身国の国旗が掲げられ、国歌が演奏されることを、孫選手と南選手は知らされていませんでした」と語られ、国歌演奏中、目を伏せて立つ孫選手と南選手の姿が映し出される。彼らの祖国は朝鮮だ。彼らは祖国の国旗も掲げることも国歌も斉唱することもできなかった。彼らの心中を察する四三や小松(仲野太賀)。そんな中、辛作が発した言葉が、もっとも「平和の祭典」らしい台詞となった。

「俺はうれしいよ。日本人だろうが朝鮮人だろうが、アメリカ人だろうがドイツ人だろうが、俺の作った足袋履いて走った選手はちゃんと応援するし、勝ったらうれしい」

 ベルリンオリンピックの選手村では、期間限定の平等としてユダヤ人が「ドイツ人」として働いていた。しかしナチス式敬礼を掲げる彼らの目は怯えている。ヒトラーは活躍したアメリカの黒人選手との握手を拒否し、孫選手と南選手は「日本人」として掲げられた日の丸を見る。「民族の祭典」が指す「民族」とは何なのか。かなり皮肉なタイトルだが、ハリマヤ足袋を履く選手を純粋に応援する辛作の台詞は、現代を生きるわたしたちにも響くものがある。

 不穏さの漂う回ではあったが、『いだてん』に再び登場した杉咲花に喜びを感じた視聴者も多かったのではないだろうか。杉咲が演じるのはシマの娘・リク。リクはお針子としてハリマヤ製作所で働いており、4年後のオリンピックを目指す小松のためにハリマヤ足袋をつくった。リクの笑顔は、シマの落ち着いた優しさを残しながらも明るく愛らしい。どうかこの先の物語でも、リクとリクを取り巻く人々が幸せであってほしいと願う。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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