『ルパンの娘』のラブストーリーとしての巧妙さ 2人の“ズレ”が後半戦盛り上がりの起爆剤に!?

『ルパンの娘』のラブストーリーとしての巧妙さ

 本作がコメディ一辺倒に見せつつも、この特異なシチュエーション下において一般的な男女の感情の機微や恋愛模様をきちんと描き切っているところに新鮮味を覚える。

 このドラマが描く恋愛は「どんなあなたも好き」「どんな君もありのまま受け入れる」という、恋愛の1番のジレンマであり痛みを伴う苦悩でもありながら、同時に果てしない喜びにもなり得る、究極の“愛の超越性”がわかりやすく映し出されている。男女双方が自身の出自、家系という逆らえないルーツをも凌駕して、2人で一緒にいることを選ぼうとする。職業的には犬猿の仲であるはずの華と和馬がそうしようとする時、互いの仕事の上でも助け合えてしまうことで、立場は正反対ながら共通目的を持っている彼らの関係性が実は表裏一体であることに気づかされる。

 2つ目は誰もが持つ「変身願望」を深キョンのあの抜群のルックスで体現してくれているところにあるだろう。泥棒一家に生まれたことに反発しながら、図書館司書として勤務する「お昼の顔」と、血には抗えず盗みの才能が疼いてしまう「夜の顔」という、本来持ち合わせ得ない2大ギャップを1人の人間の中に内包させ、その両方で1人の男性のことを全力で愛していのだ。

 和馬が知っているお昼の顔と、裏稼業の夜の顔という2面性。あるいは家族が自身に求める役割と、2人が共にいることで裏切ってしまう家族の存在・想いという相容れない二項対立。その狭間で、華と和馬は、「引き裂かれそうになりながら」その折衷案を見出そうとする。その姿は、たとえここまで現実離れした状況と矛盾を孕まずとも、実生活において様々な顔を持たざるを得なくなっている、こと現代女性の心を捉えるのであろう。

 和馬は華が嘘をついているその裏側まで見極めて一緒にいることを選んだ。そこで、和馬は最初から身元を明かし自分を偽ることなく振る舞えていた自分自身の方が余程楽で、苦し紛れに嘘をつき続け、理由も告げずに別れようとしなければならなかった華の方が辛かったのだと気づくことができたのは、2人の関係を描く上では重要なプロセスだっただろう。

 「嘘」をつくということは、何かを隠し通してでも絶対に守らなければならないものや貫きたい意志があるということでもある。その点ではなかなか真実を告げられなかった華は、決して優柔不断ということではなく、彼女が大切に思い、今まで様々な“普通”を諦めながらも、それでも手を伸ばそうとしたものが和馬だったということだ。

 果たしてそんな2人は無事結ばれるのか。交わるはずのなかった2人が運命に逆らおうとする時、どんなことが起こり、周囲もそれに巻き込まれていくのか、後半戦も目が離せない。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter

■放送情報
木曜劇場 『ルパンの娘』
フジテレビ系にて毎週(木)22:00~22:54放送
※初回は22:00~23:09(15分拡大)
出演:深田恭子、瀬戸康史、小沢真珠、栗原類、どんぐり、藤岡弘、(特別出演)、
加藤諒、大貫勇輔、信太昌之、マルシア、麿赤兒、渡部篤郎
原作:『ルパンの娘』 横関大(講談社文庫刊)
脚本:徳永友一
プロデュース:稲葉直人
監督:武内英樹
制作・著作:フジテレビ 第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/Lupin-no-musume/

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