『凪のお暇』はセオリー通りには進まないからこそ面白い! “人間の多面性”を映し出す巧みな構成
「ゴンさんはちぎりパン、ゴンさんはやたらと色っぽい女子中学生みたいな存在」
支離滅裂な表現なのに妙に納得してしまった。『凪のお暇』(TBS系)第5話で主人公の凪(黒木華)が「メンヘラ製造機」こと隣人のゴン(中村倫也)に関係を解消しようと繰り出した例えだ。
この夏は『凪のお暇』をはじめ、『偽装不倫』(日本テレビ系)、『セミオトコ』(テレビ朝日系)、『だから私は推しました』(NHK総合)等、アラサー女性の迷える人生にフォーカスをあてた作品がここぞとばかりにオンエアされている。
やっぱり迷うよね、どうやって生きていけばいいのか。
『凪のお暇』の凪は“空気を読み過ぎ、周囲の評価を異常に気にする自分”をリセットするため、仕事もSNSも恋人・慎二(高橋一生)もすべて捨て、立川のボロアパートで新しい人生を始めようとする。
そこに現れるクセの強過ぎるご近所さんたち。隣人のゴン、工事現場で働く母(吉田羊)と2人で暮らす大人びた小学生・うらら(白鳥玉季)、小銭を拾い歩く映画好きの老婆(三田佳子)、ハローワークで出会った坂本さん(市川実日子)、そして、去った凪のもとに再びやってくる慎二。夢の国もびっくりの個性豊かなキャラクターが勢ぞろいである。
『凪のお暇』が視聴者をアツくする理由のひとつが「人間の多面性」を描いている点。AさんはBさんにとって「押しの強い意地悪な人」かもしれないが、CさんにとってのAさんは「いつも1人で苦しみ傷付いている人」かもしれない。人間は他者からの「意地悪」「優しい」「強い」「臆病」などという一言で言い表せるほど単純な存在ではないのだ。
その代表的な例が、凪の元彼・慎二のキャラクター。凪を自らの所有物として扱い、支配することで承認欲求を満たすモラハラ野郎かと思わせて、じつは彼女に対してのみ感情の制御がきかない不器用さや幼さを宿す人物。さらに彼と両親とのいびつな関係が提示されことで、慎二の性格形成の一端も明らかになる。もちろん理由があってもモラハラはNGだ。ただ、主人公・凪の側から見た世界と並行して、慎二の側から見た事情も描かれるところにこの作品の“肝”がある。
また、ハローワークで出会った求職仲間の坂本さんも「いわくつきのブレスレットを売ろうとする変な人」では終わらない。既存のドラマでありがちな「友だちになれそうだと思ったら、怪しい商品を売りつけられそうになった。危なかった、終了」的な展開をぶっ飛ばし、2人はするっと友人になる。購入を断った凪と、ブレスレットの力を信じて身に着け続ける坂本さんが、互いの意志を尊重しながら関係を構築する描写はとてもリアル。だってあるでしょ? 会社や学校で相容れない主張の人とそこには踏み込まず友人関係を築くこと。
『凪のお暇』では凪をはじめ、登場人物たちが短いスパンで変化していく。その変化が同じ人間関係、同じ場所の中で起こっていくのが面白い。まるでリアルなロールプレイングゲームを見ているようだ。