『なつぞら』頑張れイッキュウさん! 中川大志が“器用”に示す“不器用さ”

 数々の好男子たちのなか、『なつぞら』(NHK総合)に遅れをとって姿を見せるかたちとなった中川大志。出演が知れていた時点で、彼がヒロイン・なつ(広瀬すず)の恋の相手として“ダークホース”的な存在だということは明らかであったが、ここにきて、完全なる名馬として走り出した。

 本作で中川が演じるのは、東洋動画の製作課に所属する若手演出家・坂場一久。東大の哲学科卒であり、弁の立つ頭脳明晰な青年だ。細かなこだわりが非常に強く、コミュニケーションを取るのが苦手なのが玉に瑕。しかし、アニメーションへの熱い想いは異常なもので、その理路整然とした物言いと冷徹な態度とでアニメーター陣との衝突は絶えないが、彼の不器用さと真っ直ぐさは愛嬌とも受け止められ、「イッキュウさん」の愛称でいまや親しまれている。

 坂場は初登場時から特徴的なキャラクターではあったものの、他の好男子たちのインパクトの強さには負けている印象があった。だが、それはしょうがないことだろう。放送開始から2カ月以上を経ての彼の登場までに、私たちは個々のキャラクターに愛情を感じ始めてもいたし、なつの兄・照男(清原翔)と砂良(北乃きい)の結婚など、微笑ましいエピソードをいくつも目にしてきていた。坂場の登場以降も、幼馴染の天陽(吉沢亮)の結婚という仰天ニュースや、雪次郎(山田裕貴)の演劇への挑戦と挫折、なつの実妹・千遥(清原果耶)の登場など、驚きと涙なくしては観ていられないものばかりだったのだ。なつと共にここまで歩んできた私たちにとって、幼馴染や親類のエピソードに勝るものはなかなか生まれないだろう。演じる中川は、ヘタに前へ出ようとはせず、淡々とこれらを脇から支えていた印象があった。

 しかし、坂場はようやく“恋愛”という彼の行路を見つけたようである。相変わらず不器用で悪意のない無神経さでいる彼だが、このところなつに向ける視線が、以前のそれとは違っていた。……などと思っていたら、いきなりのプロポーズだ。このあたり、中川も表現するのが難しかったのではないだろうか。なつに向ける眼差しの強さで、彼の“恋”と“仕事”への姿勢を視聴者に混同させてはならないように思えたし、また逆に、混同させる必要もあったのではないか。恋へと発展するのか、どうなのか。私たちをジリジリさせなければならなかったのだ。

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