アリエルの黒人歌手起用から考える、ディズニーの“進歩主義”的姿勢と女性キャラ表象の歴史

『アラジン』(c)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

 『リトル・マーメイド』をひとつの転換点として、ディズニーはますます女性表象を進歩させていくこととなる。「現代の女性」を目指して描かれた1991年『美女と野獣』のベルは、脚本家リンダ・ウールバートン公認のフェミニストだ。『アラジン』や『ムーラン』では、人種や民族に関するさまざまな描写が批判されたが、女性キャラ表象に関してはさらなる変化を見せていた。ジャスミンは男たちに「私は褒美の品じゃない!」と叫ぶし、ムーランに用意されたものはお約束な結婚エンドではなかった。こうして、プリンスたちが変わりつづけたからこそ、21世紀を代表するフェミニズム・ムービー『メリダとおそろしの森』や『アナと雪の女王』への道が築かれていったのだ。それは数字にも表れている。2016年、言語学者キャメロン・フォートとカレン・アイゼンハワーは「ディズニーの女性キャラクターが受ける賞賛」を「外観/スキルおよび成果」別にカウントする調査を発表した。

クラシック:外見55%/スキル11%(『白雪姫』等)
ルネサンス:外観38%/スキル23%(『リトル・マーメイド』等)
ニューエイジ:外観22%/スキル40% (『アナと雪の女王』等)

 ディズニー作品がフェミニズム的評価を高めた2010年代、言い換えればアリエルを見て育った子どもたちの多くが親になったとき、『リトル・マーメイド』は「子どもに見せたくない映画」として名前があがるようになる。女優キーラ・ナイトレイやミンディ・カリングも、そうした判断や躊躇を抱く保護者の一人だ。彼女たちは、同作について「大好きな作品だが、男性のために自らを犠牲とする少女の物語を子どもに見せたくない」旨を告白している。他方で再評価の動きもあるもののーー90年代直前に革命をもたらした『リトル・マーメイド』は、30年のときを経て、あらたな革命を必要とする作品になっていた。つまり、リメイクには良いタイミングだ。

 オリジナルのアリエルを演じたベンソンはベイリーを擁護したが、じつはもう1人、声を挙げた人魚姫がいる。ミュージカル舞台版『リトル・マーメイド』で主演を務めた日系アメリカ人のダイアナ・ヒューイだ。彼女もまた、人種を理由に激しいバッシングに遭い続けている。しかし、そうした経験をThe Wrapで語るなか、示唆的なコメントも残した。

「300回以上ショーをやっても、“アリエルに見えない”と言う子どもは見たことが無いんです」

 賛否を呼びつづけるディズニー・ピクチャーズだが、その作品群は、基本的に子どもたちに宛てているはずである。「すべての世代にそれぞれの伝説がある」とは『スター・ウォーズ』シリーズの言葉だが、実写版『リトル・マーメイド』の運命を決めるのは、きっと子どもたちだ。

参考

https://www.salon.com/2019/07/08/dont-feed-the-little-mermaid-racist-trolls-sketchy-accounts-fuel-anti-ariel-outrage/
https://variety.com/2019/film/news/little-mermaid-halle-bailey-chloe-x-halle-1203234294/
https://www.hollywoodreporter.com/news/how-hollywood-studios-can-compete-disneys-box-office-dominance-1223054
https://www.buzzfeed.com/arianelange/how-women-modernized-the-disney-princess
https://www.latimes.com/archives/la-xpm-1992-01-19-ca-544-story.htmlhttps://www.huffpost.com/entry/ariel-little-mermaid-voice-actress-criticism_n_5c649788e4b0084c78e29c83
https://www.popsugar.com/family/Mindy-Kaling-Talks-About-Little-Mermaid-44930436

■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。
ブログ:http://outception.hateblo.jp/
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