『マーウェン』ロバート・ゼメキスのキャリア集大成作にみる、“架空の世界”に救われる人々の心理

 1985年の6月末から7月にかけての日々が描かれる『ストレンジャー・シングス』シーズン3の主要舞台となるのは、インディアナ州ホーキンス(架空の町)のショッピングモールだ。物語が始まるとすぐ、ショッピングモールのシネコンでメインキャラクターとなる少年少女たちは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のポスターの前を素通りして、ジョージ・A・ロメロ『死霊のえじき』が上映されているスクリーンに向かう。気になって調べてみると、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がアメリカ本国で公開されたのは独立記念日の前日にあたる7月3日。なるほど、まだ冒頭では公開の直前だったわけだ。案の定、独立記念日の当日には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』上映中の満席のスクリーンも舞台となって、物語はクライマックスへと突入していく。

 80年代を語る上で絶対に欠かすことができないどころか、あの『アベンジャーズ/エンドゲーム 』中盤の鍵を握る一連のシーンでさえその変奏に過ぎないと言える、タイムトラベル映画における永遠のクラシック『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。今年『スバイダーマン:スパイダーバース』や『名探偵ピカチュウ』を観た時、「こういうまったく異なるビジュアルのタッチをもつキャラクターが同じ画面で活躍する映画、昔も観たことがあるな」と思い出さずにはいられなかった『ロジャー・ラビット』。名だたる大物俳優に最先端の視覚効果を施したことでその後の映画界の流れを変えた『永遠に美しく…』。その延長上で、今度はアカデミーの主要賞まで独占することとなった『フォレスト・ガンプ/一期一会』。クリストファー・ノーラン『インターステラー』にも多大なる影響を及ぼしたSF映画の傑作『コンタクト』。『ホワット・ライズ・ビニース』と『キャスト・アウェイ』が続けざまに(本国)公開された2000年まで、異論を挟む余地なく、ロバート・ゼメキスはアメリカで最も成功した映画監督の一人であり、最も重要な映画監督の一人でもあった。

スティーヴ・カレル(左)とロバート・ゼメキス(右)

 新作『マーウェン』を観ながら、どうしてもその主人公に重ねてしまったのは、その2000年から2012年の『フライト』までの約12年間、CG作品にのめり込んで実写映画から遠ざかっていた時代のゼメキス自身のことだ。近年のアメリカの巨匠による多くの新作と同様、実話を元にした本作。2000年当時38歳だった主人公マーク・ホーガンキャンプは、地元のバーで出会った若者たちにヘイトクライムの標的として暴行を受けて、成人後の記憶をほとんど失ってしまった。本作は、スティーヴ・カレル演じる主人公が自宅の庭に作った「マーウェンコル」という架空の村で、フィギュアと精巧な模型によって頭の中にあるもう一つの世界を写真撮影していくことによって、自分の人生を取り戻していく姿を描いた作品だ。

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