ゲームデザイナー・小島秀夫の映画からの影響を考察 最新作『DEATH STRANDING』に寄せて

映画から受け継いだ物語の遺伝子

『僕の体の70%は映画でできている 小島秀夫を創った映画群』ソニー・マガジンズ刊

 小島秀夫の映画好きはよく知られている。「体の70%は映画でできている」と公言しているほどで、彼の作品には多くの映画からの影響が見て取れる。代表作『メタルギアシリーズ』もいくつもの映画からの影響があることは本人の口からも語られている。

 『メタルギアシリーズ』のなるべく銃を撃たずにクリアしていくというコンセプトは、スティーブ・マックィーン主演の『大脱走』から着想を得たと語っているし、敵の動かし方などはジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』に影響を受けたという。主人公スネークの名前は、ジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』の主人公スネーク・プリスケンかとられたことも有名だ。他にも『007シリーズ』やアルフレッド・ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』、『猿の惑星』などの影響があると小島氏自身は書き記している(参照:『僕の体の70%は映画でできている 小島秀夫を創った映画群』ソニー・マガジンズ刊)。

 「70%が映画でできている」というぐらいであるから、小島氏にとって、映画は単なる趣味というより、人生とはなんであるか、社会や世界とはどういうものかを学ぶツールだったのだろう。小学校5年の頃から一人で映画館に通っていたそうだが、親に「映画を観なさい」と言われ、観た証明としてパンフレットを買うのが習慣だったらしい。映画は2時間の間でいろんなことを教えてくれるし、世界のいろんなところに連れて行ってくれる。小島氏のとって映画館は、学校以上に教育の場だったのだろうと思う。

 小島氏の作るゲームの特徴は、プレイヤーがコントロールを手放して映像を視聴させる「ムービーパート」の作り込みが挙げられる。ムービーパートの演出に北村龍平などの映画監督を起用したこともあり、時には30分近くムービーパートを展開してしまうこともある。小島氏のゲームが映画っぽいと評されるのは、そういう演出を好むからでもある。

 しかし、小島氏のストーリーテラーとしての本質は、ムービーパートが長いとか力が入っているとかそういうことではないのではないかと筆者は考えている。小島氏は、週刊東洋経済のインタビューで娯楽に必要なのは、以下の5つの要素だと語っている。

「日常の嫌なことを忘れさせてくれること、自分が知らない知識が得られ疑似体験できること、背中を押すこと、社会性があること、感動して自分も作りたいと思えること」(参照:週刊東洋経済2019年3月23日号、P107)

 この5つのうち、とりわけ「社会性」という点は小島作品を語る上で重要だ。『メタルギアソリッド』が反戦反核をテーマに作られていることは有名だが、冷戦終結後の核の拡散の脅威を、プレイヤーに身を持って体験させる作品だった。続く、『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』は、9.11を先取りしたような内容も含まれ、修正も余儀なくされる経緯もあったが、フェイクニュースやAIによる情報統制、管理社会など今日的な問題を先取りしていた傑作として名高い。そして、それら社会の少し先を見据えた物語を、ゲームという媒体でプレイヤーに体感させ、我々の知らない知識と世界を疑似体験させ、非日常空間へと誘ってくれるのが小島氏の作るゲームなのだ。

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