ジェームズ・ボンドの敵役にも抜擢 勇敢な役者、ラミ・マレックの軌跡を振り返る

 そして『ボヘミアン・ラプソディ』の前年に本国にて封切られ、現在日本でも公開中の『パピヨン』における主人公の盟友ドガ役ではマレックの役者人生おいても特筆すべき好演をみせた。1974年の公開以来“脱獄映画の金字塔”と知られる同名作品のリメイクである本作は、蝶(パピヨン)の入れ墨を持つ勇ましい主人公を演じたスティーヴ・マックイーンとその盟友となる天才詐欺師ドガを演じたダスティン・ホフマンによる演技合戦が今もなお語り継がれる。

『パピヨン』(c)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 オリジナルにてダスティン・ホフマンが演じたドガは頭の切れる脆弱男という印象を残したが、同役を受け継いだマレックはその強烈な存在感を放つ眼光のごとく尖る矜持を秘めた、バイタリティあふれる新たなドガ像を形成し、名優のやり方をなぞるのではなく革新的な演技アプローチをもってキャラクターに更なる深みを与えた。エジプト王からヴァンパイア、そして映画史に残る不朽の名役まで目を見張るほど多様な役柄をこなすキャリアと創造性あふれるキャラクター描写からは、彼の大いなる野心が見てとれる。

 ラミ・マレックは1981年ロサンゼルスにエジプト人の両親のもと生まれた。弁護士を志し高校時代はディベートクラブに入部するも、自身のアラビア語訛りによるコンプレックスから話し合いに参加できないでいたという彼は、後に「周りの皆と文化が違うということで自信を無くしたんだ。間違った発音で自分の名前を呼ばれても、当時の僕には訂正すらできなかったよ」と回想している。アイデンティティの壁にぶつかるなか、自信を取り戻すため考えた末に編み出したのは“キャラクターを創り出しその役柄を演じる”という策だった。そうして少しずつコンプレックスを克服していた彼のディベートから類稀なる感情表現の才能を見たクラブ顧問の勧めで一人芝居の舞台を踏んだことがきっかけとなり、本格的に演劇のキャリアをスタートすることを決意したという。

 「エジプトから来て子供たちのためにより良い生活を求めた両親は、僕に医者や弁護士になってほしかっただろうと思う。だからこそ僕は彼らに、僕のやり遂げたいと望んでいることを見せないといけない」「自分が本当に望んでいることに挑戦しないという選択肢はない。僕は自分に何ができるのか常に知りたいと思っている。自分にできる範囲をやれるだけ拡げていきたいし、そのための挑戦を続けたいんだ」。そう語るマレックの大志は、敬虔なゾロアスター教であったインド出身の父親に反対されながらも新たなアイデンティティ“フレディ・マーキュリー”を確立させ、貫き通した末にライヴ・エイドのステージを両親に見届けてほしいと願ったフレディの思いにも通じるのではないだろうか。

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