ジェームズ・ボンドの敵役にも抜擢 勇敢な役者、ラミ・マレックの軌跡を振り返る

 主要映画賞レースを席巻したのみでなく、多くのリピーターを生み興収は音楽伝記映画歴代1位を記録、さらにクイーン楽曲のリバイバルブームまで巻き起こした昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』ムーヴメントは、もはや社会現象と呼ばれるまでとなった。

  クイーンの伝記映画の製作を知ったとき、多くの映画ファンがまず真っ先に頭に浮かべたのは「フレディを演じることのできる役者はいるのだろうか?」という懸念にも似た思いだっただろう。未だ世界中から愛され続けるロックバンド、その唯一無二なる存在感で知られる伝説的フロントマンを演じることは、ある意味ではいかなる役柄をこなすより困難であり重圧も大きいことは想像に容易い。しかし、この大役を引き受けたラミ・マレックの熱演はクイーンの熱狂的ファンだけでなく同バンドの存在すら知らなかった若者層、またバンドメンバー本人たちからも絶大なる支持を受け、見事ゴールデングローブとアカデミーを獲得。勇敢な役者は、酷評を寄せつけないどころかまさに全方位から受け入れられるフレディ・マーキュリー像を築き上げ我々を驚かせた。

『ボヘミアン・ラプソディ』(c)2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

  マレックのチャレンジングな姿勢が『ボヘミアン・ラプソディ』に始まったことではないことは、彼自身によるこれまでの役歴を見れば明らかである。キャリア初期の『The War at Home(原題)』ではセクシャルマイノリティの少年、『ナイト ・ミュージアム』シリーズでは若きエジプト国王、『24-TWENTY FOUR-』では自爆テロ犯、日本でも放送されたTVシリーズ『ザ・パシフィック』では“鼻持ちならない嫌な奴”として登場するも次第に主人公に寄り添っていく人情深い伍長役を演じ、繊細な人格描写のグラデーションが評価された。その後も『幸せの教室』にトム・ハンクスによって見いだされ出演し、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーンPart2』ではエジプト族のヴァンパイア、そして一躍彼の名を知らしめることとなった主演作『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』は2015年の放送開始から現在まで続く人気シリーズとなっており、昼間はセキュリティ・エンジニア、夜は敏腕ハッカーとして暗躍する孤独な男エリオットを演じている。

関連記事