『パージ』シリーズが描く恐怖の正体 B級映画的発想に現実世界が近づきつつある?
新鋭監督を抜擢した最新作
最新作『パージ:エクスペリメント』では、これまで監督を担っていたジェームズ・デモナコがその座をジェラルド・マクマリーに受け渡し、自身は脚本・製作に徹した。シリーズ最大規模の製作費を擁する本作を新人監督に任せた理由についてデモナコは、ジェラルドの監督作品『ヘルウィーク』の鑑賞がオファーのきっかけだったと明かし「あのような大胆な映画は初めて観た。彼独自の表現を持って描くパージの世界が観てみたいと思ったんだ」と答えている。デモナコが惚れ込んだという『ヘルウィーク』は、アメリカの大学フラタニティ(社交クラブ)において通例行事となっている一週間の入会儀式、通称“ヘル・ウィーク(地獄の一週間)”が巻き起こす理不尽な暴力の増幅性とその恐怖を訴えた作品。またジェラルドはこれ以外にも、大ヒット作『ブラック・パンサー』『クリード チャンプを継ぐ者』で知られるライアン・クーグラー監督の長編デビュー作で、白人警官が丸腰の黒人青年を銃殺した実際の事件を克明に描き人種差別のはびこる現実に警鐘を鳴らした『フルートベール駅で』の製作に携わるなど、アメリカ社会が抱える闇に向き合う作品を手がけてきた。
そんな彼がメガホンを取ることとなったこの『パージ:エクスぺリメント』がこれまでの舞台であった近未来のディストピアから時計の針を戻し、まさに本国公開年である2018年のNYスタテンアイランドに設定することで内容の現実味を増幅させているのは、本作がシリーズで初めてドナルド・トランプ政権下での製作となったことが大きく反映されているためだという。ジェラルドは本作冒頭にシャーロッツ・ビルの集会の映像を使用、また貧困層のコミュニティが避難した教会をKKK(白人至上主義団体)ローブを纏った組織が襲うシーンではチャールストン教会で起こった実際の事件を反映し、エンドロールでは「Black Lives Matter(黒人の命を大切に)」運動のアンセムとして歌われているケンドリック・ラマ―『Alright』を起用するなど、人種排斥をモットーに掲げるトランプ政権への怒りを直接的に押し出す大胆な作品として作り上げた。