蒼井優と竹内結子の姉妹が“自分の人生”を取り戻す 『長いお別れ』が描く家族と個のつながり

 父親が認知症になってからわだかまりが解消されていくにつれ、芙美の自信が取り戻されていく様子も如実に描かれている。「認められている」「応援してくれる人がいる」ことの心強さ、安心感の中で本当の意味で好きなことに邁進できるようになっていく芙美は、これまでとは違って肩に力が入りすぎておらず自然体になっていく。

 また、辛い恋愛の痛手を負った後に彼女が父親に言う一言がとても印象的だった。「繋がらないって寂しいね」、さらに続けて「震災の後に“繋がりたい”とか“絆が大切”とかそういう風潮になってるんだもん」と涙を堪えながら言う。一見自由に振舞っているかに見える芙美だが、本当に欲しいものには手を伸ばせず、素直になれず核心をつかずに自分から距離を置いてしまう。

 そういう意味ではさすが姉妹だけあって、2人とも自己完結型で背負い込んでしまいがちなところは似ている。かたや勝ち組に見える姉も、かたや自分の好きなように生きているかのように傍目には映っている妹も、実際には「こうなりたかった」憧れや理想があり、ただその通りには運ばない人生を懸命に生きているのだ。

 それぞれがこれまでの厳格な父親には決して打ち明けられなかったであろう本音や弱みを認知症の父親にこぼし、ただそこに存在して受け止めてくれる姿に救われ、助けられているように感じた。

 作品を通して、認知症を決して悲観視しておらず、少しずつ記憶を失くしていくものの、その中で「取り戻していく」家族の時間があることを教えてくれる。認知症の父親を理解しようとしていたら、家族全員が知らず知らずのうちに自然とルーツを辿り、彼らにとって象徴的な「はじまりの地点」であり「立ち返るべき場所」に辿り着いているかのようだ。穏やかながら、多面的に集合体としての「家族」と個々の「構成員」のどちらもが映し出されており最後の最後まで見入ってしまう作品だ。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter:https://twitter.com/Tominokoji

■公開情報
『長いお別れ』
公開中
監督:中野量太
出演:蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山崎努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人
脚本:中野量太、大野敏哉
原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊)
企画:アスミック・エース、Hara Office
配給・制作:アスミック・エース
(c)2019『長いお別れ』製作委員会
公式サイト:http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp/
公式Twitter:@nagaiowakare_mv

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