高橋ヨシキ「過剰な狂気ーーマイケル・ベイ映画の世界」第2回
マイケル・ベイ映画の“ギラギラ至上主義”ーー大失敗の『アイランド』とスピルバーグからの打診
生まれて初めて映画がコケるわ、製作者と女優が泥仕合を繰り広げるわ、盗作騒動で訴訟問題にまで発展するわ……意気込んで『アイランド』を監督したマイケル・ベイはキャリアのどん底にいた。いかに「爆発と破壊ばかり」と言われようと、間違いなくヒットを飛ばす監督として築き上げた評判は『アイランド』の失敗で崩れ落ちようとしていた。
マイケル・ベイがスピルバーグから『トランスフォーマー』の監督をやってみないかと打診されたのは2005年6月30日。『アイランド』公開前のことだった(『アイランド』の公開は同年7月22日)。このときベイは「いや、だって『トランスフォーマー』って、子供向けのアニメとかオモチャのアレでしょ? それはちょっと……」と難色を示している。が、スピルバーグに言われて『トランスフォーマー』のオモチャ会社ハズブロを尋ねたベイは、そこで数時間に渡って『トランスフォーマー』世界についてレクチャーを受け、「これは、やりようによっては面白い映画になるかも」と考えを改めることになる。「『リアル』にロボットが描けるなら、クールな映画を作れる可能性はある」と。
マイケル・ベイはインタビューなどで「リアル」という言葉を好んで使う。「『リアル』にしたからカッコイイものができた」「ここでは『リアル』を追求した」という風に。しかし、マイケル・ベイの言う「リアル」とはどのようなものか、ということについては考察の必要がある。
『バラエティ』誌の映画批評家ピーター・デブルージはマイケル・ベイ作品の「ルック」について次のように書いている。
「事実上、すべてのショットが完璧に輝いている。コマーシャル内の商品がベストな見え方で映し出されるように。さらに、すべての一瞬が強調されている。映画の予告編の映像のようにだ。予告編は2分半のうちに、その映画でベストな部分が集約されている。最も素晴らしいショット、もっとも凄い特殊効果、最もスリリングな瞬間が。マイケル・ベイの映画を観るというのは、2時間半に渡って(コマーシャルか予告編のように)カネのかかった(ように見える)ショットと、真似したくなるようなカッコイイ言い回しを観続けるという体験だ。マイケル・ベイの映画を観ていて、私は長編の予告編を観ているような気持ちになる。彼はそういう『息を飲むような映像』を長編の長さにまで引き伸ばしーーそれをさらに延長して見せる」
デブルージが言うように、マイケル・ベイの映画は不必要なまでにギラギラしている。ギラギラする照明の中、ギラギラした美女やギラギラした車、ギラギラしたロボットが交錯し、衝突し、爆発して炎上する。この「ギラギラ至上主義」ともいうべき傾向がどんどんエスカレートしていくさまは『トランスフォーマー』シリーズを続けて観るとよく分かる。つまり現在も進行中なわけだが、その端緒となったのは『アイランド』と1作目の『トランスフォーマー』であるーープロデューサーがブラッカイマーからスピルバーグへと変わったことで、ベイの「ギラギラ至上主義」が本格的に頭をもたげ始めたのだ。(第3回へ続く)
第1回:天才監督マイケル・ベイの“美”を求めてーー正気の『バンブルビー』と狂気の『トランスフォーマー』
■高橋ヨシキ
1969年生まれ。映画ライター/デザイナー/チャーチ・オブ・サタン公認サタニスト。雑誌『映画秘宝』でアートディレクター、ライターを務める他、映画ポスター及びDVDのジャケットデザイン、翻訳、脚本など多彩なフィールドで活躍している。