『名探偵ピカチュウ』のピカチュウは実写映画における映画スター! その“かわいさ”が意味するもの
そんなピカチュウの実体感に大きく寄与しているのが、俳優の動きをCGアニメーションの動きに同期させる「モーションキャプチャー」である。今回、ピカチュウの声を担当しているライアン・レイノルズは、その表情をも担当し、彼の演技はピカチュウに反映される。つまり我々は、ピカチュウの表情にため息をつくときに、レイノルズこと中年男性の表情を間接的に眺めているのである。ある意味でそれは、CGで作られた最新の「着ぐるみ」のようなもの、もしくは“魂のある人形”だといえよう。
先立って公開された『アリータ:バトル・エンジェル』は、俳優の姿かたちや動きをモーションキャプチャーによって克明に再現しながら、主人公であるサイボーグの少女の瞳を、生身の人間としてはあり得ないような大きさで表現した。技術の進歩が、実写映画における新しいヴィジュアルを、自然な演技のなかで映し出すことに成功している。その意味では、本作のピカチュウもまた、かつてない領域に踏み出すキャラクターとなっているのである(参考:『名探偵ピカチュウ』『シン・ゴジラ』……“モーションキャプチャー”が可能にする新時代の映像表現)。
人間を危険にさらすことも可能な電撃技を持つピカチュウだが、本作では、ちょっと高いところから降りるのに、おそるおそる確認しながらの仕草を見せたり、上目づかいでウルウルとした瞳を人間に向けたりなど、“かわいさ”を強調する工夫が、あらゆる角度から徹底的にとられている。アメリカでは、日本における“かわいさ”を珍重するポップカルチャー、いわゆる“Kawaii”がすでに浸透しているが、今回は物量をもってして、その分野で日本の限界を凌駕してしまった感がある。
近年、映画作品のなかには多種多様な魅力を発生させようという努力が見られ、映画スターの姿にうっとりするために映画館に足を運ぶという価値観は、健在ではあるものの、以前より希薄になってきているといえる。そんな状況下において、「もっとピカチュウを見せてほしい」という、強い欲求を少なくない観客に感じさせるというのは希有なことだ。本作のピカチュウは、様々な工夫と技術が集結して再び創造された、実写映画における紛れもない映画スターである。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『名探偵ピカチュウ』
全国公開中
監督:ロブ・レターマン
出演:ライアン・レイノルズ、ジャスティス・スミス、キャスリン・ニュートン、渡辺謙、ビル・ナイ、リタ・オラ、スキ・ウォーターハウス
吹替:竹内涼真(ティム役)、飯豊まりえ(ルーシー役)
配給:東宝
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公式サイト:https://meitantei-pikachu.jp/