『いだてん』森山未來の演技が凄まじい “古今亭志ん生”への一歩を踏み出した『文七元結』

『いだてん』森山未來の演技が凄まじい

 ここからの森山の演技が凄まじい。牢名主から言われた言葉が腑に落ちたのか、それとも単純に悔しかったのか、そのどちらとも取れる表情を見せた孝蔵は「今度はクサくやります」と再び『文七元結』を演じ始める。そこからの『文七元結』は鬼気迫るものだ。身投げしようとする文七とそれを必死で止める長兵衛が取り憑いたかのような演技。そして孝蔵の『文七元結』と松尾演じる円喬の『文七元結』が重なっていくと、文七と長兵衛の関係は、そのまま孝蔵と円喬の関係につながっていく。百両をなかなか受け取らない文七と「いいから持ってけ!」と渡す長兵衛の姿は、孝蔵を小円朝に預け、孝蔵に餞別を投げつけた円喬の姿そのものだ。百両を渡された文七を演じる孝蔵の目には、今は亡き円喬の姿が浮かんでいたのかもしれない。涙を流し、唾をまき散らしながら、演目中に思わず口にしてしまった「師匠ー」という呼び声は、孝蔵の悲しみをひしひしと伝えてくれる。

 森山が『文七元結』を演じているとき、森山の姿が孝蔵そのものに見えるだけでなく、文七にも長兵衛にも、そして円喬にも見える瞬間があった。森山1人で演じているにも関わらず、文七と長兵衛の関係、そして孝蔵と円喬の師弟愛が濃密に伝わってくる。あまりの熱演に、心揺さぶられるだけでなく、その底知れぬ演技力に恐ろしさを覚えた視聴者もいるのではないだろうか。

 自ら髪の毛をバッサリ切り落とし、小円朝のもとへと戻った孝蔵。再び落語の修行に励む孝蔵が『寿限無』を演じる姿が映し出されるが、その姿はすでに、ビートたけし演じる“古今亭志ん生”に重なりつつある。第16回は、“悪童”から脱し、“古今亭志ん生”へ近づいた孝蔵の魅力的なキャラクターと森山の凄まじい演技力が伝わる回となった。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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