「平成バラエティ史」を振り返る【前編】ーー“感動×笑い”を洗練させた『めちゃイケ』の功績
コントとドラマの接近、そして融合
『めちゃイケ』の前身番組は、『とぶくすり』(1993年放送開始)。コント中心の深夜バラエティである。すでにフジテレビでは、同様の深夜バラエティ『夢で逢えたら』(1988年放送開始)からブレイクしてダウンタウンやウッチャンナンチャンがゴールデンタイムに冠番組を持つようになった前例があり、「深夜からゴールデン」が出世コースになっていた。
ただ『ダウンタウンのごっつええ感じ』(1991年放送開始)や『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(1990年放送開始)といった番組は、ドキュメントバラエティがトレンドになる以前にスタートしたこともあって、深夜と同様にコント中心のバラエティとして成功した。
そこでは、コントはある種の「作品」のようになった。ドタバタやギャグがメインのものだけでなく、たとえば『ダウンタウンのごっつええ感じ』の「トカゲのおっさん」のように、ストーリー性を伴った、演者にも演技力が求められる一編のドラマのようなコントが、そうした番組には含まれていた。要するに、シリアスとコメディの両面を持つようなコントが、ひとつのジャンルとして定着したのである。
一方で、2000年代に入る頃になると、深夜ドラマを中心にドラマがコント化し始める。『トリック』(テレビ朝日系、2000年放送開始)が典型的で、シリアスなストーリーを軸にしながらも、小ネタやパロディ、笑える掛け合いなどコミカルな要素を自在に織り交ぜていく手法が人気を呼んだ。
そこには、『トリック』の演出の堤幸彦にはとんねるずの番組の演出経験が、テレビ東京『勇者ヨシヒコシリーズ』の脚本・演出の福田雄一にはバラエティの放送作家の経験がそれぞれあるなど、バラエティとドラマ双方に関わった経験を持つスタッフの存在があった。また『勇者ヨシヒコシリーズ』の主演を務め、『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系、2015年放送)ではドキュメンタリードラマのようでもコントのようでもある不思議な空間を生み出した山田孝之のような俳優の存在もあった。
こうしてコントとドラマが接近するなかで、実際に俳優がコント番組に出演するケースも増えた。
NHK『サラリーマンNEO』(2006年放送開始)は、タイトル通りサラリーマンの世界を舞台にしたコント番組である。演じるのは主に生瀬勝久、沢村一樹、山西惇などの俳優で、お笑い芸人はいない。ニュース番組や外国語講座のパロディあり、キャラクターコントあり、悲哀やユーモア漂う演劇的なコントありと多彩なコントを俳優たちが見事に演じる姿は、「バラエティ=お笑い芸人」という常識を揺るがせるに十分なものだった。
また2012年放送開始のNHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』では、お笑い芸人と俳優がコント番組で共演している。メインのウッチャンこと内村光良、ココリコ・田中直樹、ドランクドラゴン・塚地武雅らお笑い芸人とともにムロツヨシ、西田尚美、吉田羊、塚本高史ら俳優がレギュラー出演し、やはりさまざまなタイプのコントを繰り広げる。そこにはもはやお笑い芸人と俳優のあいだに境界線はなく、コントとドラマが融合したような印象を受ける。
※後編に続く
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。