大泉洋主演ドラマ『ノーサイド(仮)』も決定 池井戸潤原作の映像化にみる“経済時代劇”的手法

池井戸潤原作が映像化される理由とは

 また、歌舞伎では、きちんと敵を仕留めたかどうか首を検める場面では、身分が異なり思惑が違う面々が舞台にずらっと並び、顔芸で心理戦を表現したりする。このように大勢が集まって緊張感が高まるクライマックスは、映画やテレビの時代劇の奉行による裁きの場面などに受け継がれた。江戸時代とは異なり、身分制がなくなった時代の映画やテレビでは、所属するグループの存続より個人の心情に寄り添う物語になった。とはいえ、主人公が徳川家に属することを示す葵の御紋を絶対的権威として描いた『水戸黄門』や『暴れん坊将軍』など、お上は正しいとする図式は時代劇にも温存されたのだが。

『七つの会議』(c)2019映画「七つの会議」製作委員会

 一方、『七つの会議』の原作小説で父まで三代続いたねじ製造の中小企業を継いだ長男が、妹からサラリーマンよりも「一国一城の主のほうがええんとちゃう?」といわれるように、会社を城に喩えることは珍しくない。お家騒動、外様など時代劇で使われる言葉が、経済界でも使われる例は多い。忠誠心が試され、地位の上下が明示され、敵か味方かが問われ、時には責任を肩代わりさせられても文句をいわず耐えなければならない。一国一城の主でも、下請けの中小企業なら発注元の大企業のいうことを聞かざるをえない。地方の小藩が幕府にたてつくわけにいかないように。

 池井戸の小説は、そうした関係から生じる緊張の高まりを扱ってきたわけだし、映像化ではそれを時代劇的な手法で描いた作品が成功した。身分が固定されているわけではない現代が舞台だから、必ずしも単純な勧善懲悪ではない。敵役には敵役の事情があったりもする。また、経済が題材である以上、帳簿だ利益率だ法令だと難しそうな要素もなくはない。小説には、複雑な絡まりを解いていく面白さもあるが、福澤が確立した映像化の方程式はもっとストレートなテイストを目指す。複雑な問題も顔芸を軸に誇張した演出で痛快に吹き飛ばし、風通しのよさを感じさせる。それが、経済時代劇の池井戸ドラマである。

 『ノーサイド(仮)』以後も池井戸原作の映像化はされるだろうが、このパターン以上の画期的な演出を見出すのは難しそうだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

■公開情報
『七つの会議』
全国東宝系にて公開中
出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、音尾琢真、藤森慎吾、朝倉あき、岡田浩暉、木下ほうか、吉田羊、土屋太鳳、小泉孝太郎、溝端淳平、春風亭昇太、立川談春、勝村政信、世良公則、鹿賀丈史、橋爪功、北大路欣也
原作:池井戸潤『七つの会議』(集英社文庫刊)
監督:福澤克雄
脚本:丑尾健太郎、李正美
配給:東宝
(c)2019映画「七つの会議」製作委員会
公式サイト:http://nanakai-movie.jp/

■放送情報
日曜劇場『ノーサイド(仮)』
TBS系にて、7月スタート 毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:大泉洋ほか
原作:池井戸潤『ノーサイド」(今夏刊行予定)
脚本:丑尾健太郎ほか
演出:福澤克雄ほか
出演:大泉洋
プロデューサー:伊與田英徳ほか
製作著作:TBS

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる