『ブラック・クランズマン』から見えてくる“今のアメリカ” 強烈なエンディングの意図を読む
KKKに潜り込んだフリップは、そこでメンバーのフェリックスに目を付けられながら怪し気な計画が進行していることを知る。フェリックスと一部の仲間はテロを計画していて、その標的のひとりがパトリスだったのだ。このあたりから物語はサスペンスフルな展開になっていくのだが、政治的なテーマでありながらもエンターテインメントとして楽しませるのが、スパイク・リーらしいところ。パトリスとロンがデート中に、『黒いジャガー』や『スーパーフライ』など70年代にヒットした黒人映画の話をするシーンがあるが、本作はそういった黒人映画やポリス・アクションなど70年代の映画のスタイルを引用。さらに『國民の創生』『風と共に去りぬ』といったアメリカ映画の名作の映像を織り込み、そうした作品に潜む人種差別問題も取り上げる。いってみれば本作は、巧みなサンプリングと芯の太いグルーヴで生み出されるヒップホップのようだ。
爆弾騒ぎはフィクションのようだが、スパイクは事実をベースにイマジネーションを広げて、時にはコミカルに、時には恐ろしく、アクション、ロマンス、サスペンスなど、様々なジャンルや感情を盛り込んで映画的な映画を生み出した。そのうえで、スパイクは最後に爆弾を仕掛けている。映画が終わったかと思った瞬間、突然、挿入される21世紀のアメリカのニュース映像。そこではリアルな悲劇が繰り広げられ、本物のデビッド・デュークが、そして、トランプ大統領が登場する。そして、そこでほのめかされるデュークと大統領の関係。スパイクの反骨精神が炸裂する強烈なエンディングだ。最後に流れるプリンスが歌う黒人霊歌「メリー泣かないで」が胸にしみる。フィクションのなかに現実の映像を入れる演出は、レジーナ・キングが助演女優賞を受賞した『ビール・ストリートの恋人たち』にもあったが、どちらの作品からも「闘いはまだ続く」という強いメッセージが伝わってくる。本作はスパイクに念願のアカデミー賞(脚色賞)をもたらしたが、作品賞を受賞した『グリーンブック』も白人と黒人の友情を描いた作品で、こちらは白人監督、ピーター・ファレリーによるもの。2本を併せて観ることで、今のアメリカが見えてくるはずだ。
■村尾泰郎
音楽と映画に関する文筆家。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などの雑誌や、映画のパンフレットなどで幅広く執筆中。
■公開情報
『ブラック・クランズマン』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
監督・脚本:スパイク・リー
製作:スパイク・リー、ジェイソン・ブラム、ジョーダン・ピール
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィンほか
ユニバーサル映画
配給:パルコ
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/原題:BlacKkKlansman/映倫:G指定
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